枝 光(合川)

※筑後一、十三、21

 何代目ん殿様か知らんが、参勤交代の帰り筑前の冷水峠(ヒヤミズ)で一息入れらっしゃったげな。 天気は良し南にばーっち広がっとる筑後平野んすばらしかつに今更ながら感心して.家来達とキラキラ 光って帯のごつ流れとる筑後川やら高良山の姿ん良かこつどん話しながら、こんもりした森のパーッと 若葉で光っとる美しさに目ば止められち、あの森あ枝々が光っとるごたるち言わしゃったげなけそりか ら此処ん森のあるとこば枝光ち言うごつなったげな。

合 川(合川)

※続市誌上540

 合川ちゃなし言うか話しとこかの。合川ちゃくさい、筒川(ツツガワ)と高良川が一緒に合うとこぢ ゃけ合川ち言うとたい。

十三部(合川)

※筑後一、十三、21

 真言宗ぢゃ聖天さんば祭って悪霊ば防えだり、除けたりする行法のあるけ、そん十三部ばとって此処 ば十三部ち言うとぢゃい、又誰か言よったごつ、昔法華経十三部ば埋めち、そん上に観音堂ば建てらつ しゃったち言う意味で十三部ち言うごつなったっぢゃい、どちみち仏教に関係のある名前たい。

幽霊鏡(合川)

※三井めぐり57

 福聚寺ば開かっしゃった古月和尚さんのまーだ十五頃日向で修行しござった時の事(コツ)・日向大 光寺さんの墓所ば通って毎晩隣村に学問しに行きござったら、或る晩のこつ、新墓から亡者ん出て来て 「御覧の通り髪剃らんな居りますけ、どうしてんあの世に行かれまっせんな困っとります。そっで一ち ょお頭剃(コゾリ)ばして下さい」ち頼うだげな。和尚さんな怖(エス)がりもせんな、「今夜そげん こつば、ひょこつと言われたっちゃ髪剃刀(カミソリ)ば持っとらん。明日の晩なら用意して来て剃っ てやろうたい」ち約束せらしやったげな。亡者は明けん晩又出て来て和尚さんから望み通りお頭剃ばし てもろうたもんぢゃけ、とても喜うで「何の御礼も出来まっせんが、ほんな気持でございます。どうか こりば納めち下さい」ち言うて御棺の中に納めちゃった手鏡ば差し出したげな。和尚さんも有難うち戴 かしゃって、そりからこん鏡ば死ぬ迄(マ)ぢ大事にしとんなさったげな。

逆流れの観音(合川)

※久留米めぐり45

 何代目ん殿様か知らんが、市の上ん別邸に、ある時泊っちゃったげな。あんまり雨ん降るもんぢゃけ 「梅雨時ちゃ言うてん此げん今日も雨、明日も雨なら大水なって、又今年あ上納ん入ってこんが」ち水 の増ゆる筑後川ばぢーっと眺めながら心配しござったげな。どげん心配したっちゃ天気にするこつぁ出 来んけ、諦めち寝らしゃったげなりゃ其ん晩、観音さんの枕上立たしゃって「明日ん大水で此方(コッ チ)流れて来るが、此処に祀ってくるるか」ち聞かしゃったげな。そりけ「はーい祀るどこぢゃありま っせん。有り難いこつです。」ち殿様の返辞せらしゃったらすーつと消えらしゃったげな。ぢんべんに 殿様な夜明け前起きって、身ば清めち、下ん川に待っちゃったところ、水の増えとる筑後川から此っつ ぁん逆さに、ゆっくりゆっくり広か石の浮いて流れち来よるげな。ぢーつと見よったら殿様の前まぢ来 てピシャツち止まらっしゃったげな。もう殿様(トノサン)な雨ん中に土下座して拝うで、別邸に祀ら しやったげな。そりからこん殿様にゃ良かこつの続いたち言う話。こん観音さんな平石に浮き彫しちゃ る板碑ち言うとで、お願いすりゃ如何(ドゲ)んか事(コツ)でん、どげん困った事(コツ)になっと ってん、チャーンと良か方さん直してやらっしゃる力ば持っちゃるもんぢゃけ、逆流(サカナガ)れの 観音さんち言うて有名なったげなたい。こん観音さんの逆上(サカノボ)ってこらしゃった小川ば観音 川ち言うて、此処ぢゃ汚かもんな洗うちゃでけんち触れん出て何時もきれいか小川ぢやったげなたい。

みたれーさん(合川)

※続 市誌上541

 市ノ上天満宮さんの北さね下った処に「みたらいさん」ち言う八坪か十坪ぐれん池の三っ並うどる。 どりも三十間ぐれずっ離れち並うどるが、どん池でん清水の湧き出て、とてん澄み切っとる。こん三つ 並うどるとん西ん池にゃ如何(ドゲ)な故実(ワケ)か知らんが五輪の塔ん小まかつの建っとる。早魃 の時こん池ばようと凌えち、朝妻ん清水ば汲んで来て入るっと不思議や不思議雨の降ってくるこつ間違 いなしち言われとった。

八竜池ん金茶釜(合川)イ

※筑後国里人談十四話1

 昔此処ん国府で謀叛(ムホン)の起った時、此ん井戸に放り込うで隠したつぢゃろうち思われとる、 金の盃、金の茶釜、それ銅鉾ば、旱魃の時、池から取りあげち、朝妻ん清水で洗うて又池に入るっと不 思議なこつ雨ん降って来るげな。そっで此ん八竜池ん宝物な村全部の大事な物ぢゃった。そりゃぁとて ん大事な物ぢやつた。ところが或ッ時、こん大事か金の茶釜ば池から盗うだ奴がおった。こん池は昔ぁ 長者の井ち言う井戸ぢゃったつの崩(ク)えち池になったつぢゃったけ、そりゃばさろ深かつに如何し て一人で潜(モグ)って取ったもんぢゃい、盗人は茶釜に一ペ付いとる泥ば高良川さん持って来て洗い よった。ところが今まぢお月さんの照って良か晩ぢゃったつに急に黒うなってガラガラパチンち地の割 るるごたる音んして雷さんの目の前落てらしゃった。稲光りぁする、雨風にゃなる。盗人は茶釜ば放 (ホ)してちチュウヤクリクリ逃げたげな。そりからこつちもうそげな悪かこつする者な居らんごつな ったげな。(他に七ッ森長者ち言う同じ話のある。)

長者の井(合川)ロ

※久留米路の旅情劇

 千百年ばっかり前、筑後国府ち言う役所が合川にありました。今ん県庁んごたる役所で此処に都から ミトリち言う長官がやって来ました。正直で偉張(イバリ)もせんし、今迄ん長官のごつ悪か事あせん なよう百姓どんの面倒ば見るもんぢゃけ、皆からほんに好かれ有難がられとりました。ところが前の長 官の手下になって悪かこつしょった役人だん、ミトリが邪魔でしようがありまっせんでした。いよいよ 六年に一度んロ分田の分け直しばする時が近うなりました。さー悪か役人達ぁこの分け直しばすっと誤 魔化して二人分も三人分も我が物にしとったつの露見(バルル)け、ミトリば殺そうち、近成ち言ぅ課 長ぐれん役人が中心になって三十何人謀組(ボオグ)んで正月三日ん晩、ミトリが寝とっとこば襲うち 殺してしまいました。屋敷内は血だらけ、屋内の良か物(モン)な引張り出し、持ち出され、そりゃ強 盗ん入ったごたる有様ぢゃったけ、初めんうちゃ誰が殺したか、いっちょんわかりまっせんでした。こ ん襲撃の時。誰か宝物(モン)てん金銀の造り物(モン)ば持ち出して井戸ん中に投げ込うで隠したっ ぢゃろち思われます。そりが長者の井で、年のたっにつれち井はだんだん崩(ク)えち、何時か池にな ってしまいました。そして池にゃなったばって昔から言いよった長者の井ち言う名だけが変らんな池の 名に残り、日照りの続いて旱魃になった時ぁこの池ん中に沈うどる金の茶釜ば引き上げち、朝妻ん泉の 水で洗い清めち、又元んごつ池さね戻すと、かならず雨ん降るち言われとります。

松露石(合川)

※筑後一、三、31

 福楽寺ば建てなさっ時、古月和尚さんな、藩の役人どんと朝飯ば庭先ん松の下で喰いござったげな。 そしたらそよ風ん吹いて、松の朝露んパラパラおてて来て、和尚さんのお膳の上んとだけが、どうした こつぢゃい、ちょうど仏舎利んごつ白か玉になってしもうたげな。お寺ぢゃ此りば松露石ち言うて御宝 物にせっしゃったげな。

五雲の宝蓋(合川)

※続市誌上545

 古月和尚さんの死なっしゃる時東の方から五色の雲んずーっと湧いて来て、丁度福聚寺ん上で立派な 五色の宝蓋の形になって、いーっ時して、ゆーっくり、ゆーっくり揺れながら西の方さね流れち行たげ な。畠てん山で仕事しょった百姓とんが、こりば見て珍しか雲じゃねち話しよったとけ、和尚さんの死 なしゃったこつば知らされ、和尚さんな偉かったけんお迎いの雲ん来たっぢゃろうち噂したげな。

千本杉(一)(合川)

※久留米路の旅情61

 昔、ずーつと千本ぐれ杉の立っとったげなけ千本杉ち言うごつなったっぢゃが、こん杉ぁ享保二年ち 言うけ二百七十年ぐれ前、篠山ん祇園寺ん坊(ボン)さんが、高良山さねいつも通るこん道に杉ば植え たなら、百年二百年ちたった時ぁ、そうおうにゃ太なって役に立こつぢゃろち、楽しゅうで植えらっし ゃったつげな。

   (二)

※筑後二、三、12

 今から二百三十年くれ前、竹野郡の門の上ち言う所ん忠助ち言う大百姓が、高良山の杉ば、自分げん 山杉ば伐っ時一緒に誤魔化してちーつと盗み伐(キ)りしたげな。そんの露見(ばれ)ち、罰金代りに 杉ば此処ん通り千本植えたっげな。

   (三)

※翁1

 千本杉ち何故(ナシ)言うか話しまつしょか。三百年ばっかり前、此処で敵ば防ごち思わしゃった殿 様ん千何百本か植えらっしゃったけん今は失うなっとるばって言うとたい。

一字一石塔(合川)

※篠原稿

 昔、何代目ん殿様か知らんばって、参勤交代から帰って来て、心浮き浮き「市の上別荘」さね行きよ らしたち。そしたら天満宮さんの前で馬ん奴が何んに魂消(タマガ)ったつか逆立ちなったもんぢゃけ
、殿様(トノサン)なボテッち落馬さしたげな。「あーこりゃ天満宮さんの前ば馬に乗って通(トオ )ろでちしたけ神様ん腹かかしたつばい。すまんこつぢゃった」ち神さんに謝罪(コトワリ)言うち
、猶法華経ば石一ちょに一字ずつ書いて埋むる代わりに一字一石塔ば天満宮さんの東口に建てらっし
ゃったげな。今でん其ん石塔は建っとる。

白蛇白狐の先導(合川)

※続市誌上545

 延享二年ち言うけ、今から二百三十年ばっかり前んこつ。福聚寺ば建ちゅうでち、どこが良かろか、 良か場所ば探しござった古月和尚さんと藩の役人の前にヒョコッと白狐と白蛇が出て来て、黙って先い 立ってずーつと先導して行たげな。そして今ん所ば一廻りしてパッち消えたげな。そっで「あーこりゃ 此処が良か場所ち言う仏のお示(シメ)し」と思うて、役人も古月和尚さんも、其処にお寺ば建つるご つ決めらつしやったげな。

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