盗られた名刀 (藤山)
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※筑後国里人談三十一話
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昔、八女ん吉田ん若け者どんが盗人ばつかまえち、ぼーぶら打ちして松の木きびっつけ、盗人がかく
れとった塚穴で刀ば一本みつけた。抜いで小松ば切ったらスパッち切れた。こりゃ良う切るる、だー俺
にも切らせろち、若者(ワケモン)どんが移り変り木てん竹てん切ってみたが良う切るる。こりゃ良か
刀ち騒ぎよるうち夕(ユウ)るしなった。盗人ば見たら、あんまりこき叩き過ぎたもんぢゃけ死ぬかん
知れんごたる。死んどんするりゃ大事なるもんで、目明に盗人ばつかめち行てくるるごつ言うたところ
、「こげん傷負うとるとば番所に連れち行きゃこつちが迷惑する傷の良うなってから言うて来てくれ、
そすとすぐ引きくる」ち言うて帰ってしもた。こりゃこん儘して死なるりゃとつけむねーこつ。そっで
盗人に「おまや何処ん者か、そしてこん刀は何処から盗うで来たつか」ち、ちーッとやさしゅう聞いて
みた。「はい、私は苧扱川ん者で、こん刀は藤山ん庄屋から預った物です。なー庄屋は私の叔父になり
ますけ、あすこに連れち行て下さっと良うわかります」ち、やっとらこつとら言う。若者だん喜うで藤
山ん庄屋どんのとこに行って、こん盗人ば引取ってくれち頼うだ。庄屋どんな「滅相もなか、昔あいく
らか引ぱりぢゃったろが、こん奴あ、初手から身持の悪かったけ、全然往き来はしよらん。こげな奴ば
引取るわけはなか」ち言わす。若者(ワケモン)だん困って「そりばってんこん刀ば預かったち言いよ
るがの」ち刀ん良う切るるこつば言うた。庄屋どんな、刀ん話ばじーつと聞きょらしたが、さーつと二
階さん上って、すぐ降って来て「確にこん刀は盗まれた刀。こん奴が盗うだこつにゃ間違なかろけ、刀
も一緒に返してくるるなら盗人も引取ろ。」そっで若者どんな大安心。そりからこん刀の切るるこつの
村中に分って名刀げな、良か刀げな、ち大した評判の町まで流れ、とうとう久留米藩の松田平蔵ち言う
侍が一見したいち庄屋どん方にやって来た。庄屋どんなそげな刀は持ちまっせんち、はっきり言うて見
せらっさんぢゃった。庄屋どん方にそげな名刀のあるはずぁなかち思うてか、侍ぁ帰って行たが、こん
庄屋どんの先祖は、昔八女ん猫尾城の殿様ん流れぢゃけ.ちゃーんと有るとがあたりまえばってそりば
知らんなおったつぢゃろたい。
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甲塚 (藤山)
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※筑後国里人談九話
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藤山に甲塚ち言うとる所(トコ)んありますが、こりゃそこんとこで一番太か塚が兜に似た形である
とと、そん塚ん中からずーつと昔、金の兜ん出て来たげなけ言いますとげな。或時村ん者五、六人でこ
ん塚ば畑にしゅうち、崩しかかったげなら、一天俄にかき曇ってまーだ二月ち言うとに雷さんの鳴って
、アッと言う間に雨んザーッち降って来たげなもんぢゃけ、タマがって仕事止めち帰りかかったところ
、何処からかわからんが女ご達の声で「命は世のため、世は神の代と知らで穿つな甲塚」ち歌ん流れち
来たそうですたい。そっで村ん者達ぁ震い上ってそりからこつち塚ば崩(クズ)そてんなんてん考えで
んせんごつなったち言う話です。
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