白楽天の火 (東合川 )
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※筑紫野民譚集413
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下弓削の白楽天さんな、子供どんがお宮から持出して遊んもんにしたっちゃ崇らっさんが、夏の晩、
ちょいと火の玉になってフワフワ遊び出らっしゃるとば見つけち、からこうたり、悪口言うたりすっと
、ひどか目にあわせらっしゃるち。そん反対に白楽天の詩ば歌いどんすんなら喜うで一つん火の玉が二
つになったり三つになんたり、とても嬉しかごつフワフワ浮いて回らっしゃるげな。こりゃ今から百二
十年ばっかり前ん話ぢゃが、久留米ん学生どんが安居野さん遠足に来て、あすびすぎたっぢゃろ帰り路
日の暮れっしもうたげな。若け者(モン)のこつじゃけ歌うたりエスか話どんガヤガヤしながら来よっ
と向うん方から、火の玉んフワフワ浮いて来るげな。例の白楽天の火ばいのち思うて一人が琵琶行の詩
ば歌い出したらスーツち、ほんなそこまで近うなって来て溝ばはそうでこまか音立てちついて来るげな
。歌の終たとこ東合川で、止めときゃ良かつに別の若ヶ者(モン)が「火の玉、おまいが霊力持っとっ
なら、我々と力比べしゅうぢゃなかか」ち呼びかけたげな。そーしたらすーつと音ん止んで路さん浮い
来てパラパラち火の子になって散ったげな。学生だん・そん火ば下駄で踏んたくって、勝った勝ったち
喜び、いよいよ太か声で歌うとうて帰って来よったげな。ところがものの五、六丁も来たとこて、さー
腹んせき出す。タレカブロごたる高熱ぁさす、ワナワナ震や来っで大事なったげな。びっくりしてそこ
んにきの家に飛込うで寝せち医者呼ぶ、薬のまする、そりゃー、ふてーこつなったげな。ようよ何日か
したら良うなったげなけ家さね帰ったち言う話。ま一ちょん話あ、ある商売人が肥前行きして帰って来
よったら久留米ん町で日の暮れたもんぢゃけゆつくりして、十時も過ぎた頃下弓削は通りかゝった。も
う二遍ちゃ日は暮れんけんち、道ばたん木の根に腰下し一服しかかった。煙管に煙草ひねって火ばつく
でちしたら、何処で失うたか燧打石(ヒウチイシ)のなか、困っとった向うから火の来よる、何ーんの
気なし「火ば貸してくれんの」ち火の前にくわえた煙管(キセル)ばさし出した、とたんに火んバーッ
と燃え上って、ジーッち気味ん悪か音立てち頭ん上さん飛てうで来た。はービックリして煙管握ったま
まチューヤクリクリ逃げ出した。逃げ出したら火の方も又後(アト)は追うち来るる、そん早かこつが
。もう走って走って、ダダ走り一軒の家さん飛びこうで助けちくれち頼うだもんぢゃけ、家ん者(モン
)も、話聞いち戸口も、雨戸も全部閉めち。明けん朝になって商人な家さね帰ったげな。初手からこげ
んな煙草ん火てんなんてんに、こん火ば使うと頭ん上に止って、髪でん焼きたくらすち言い伝えになっ
とっとは知らんじやったっぢゃろ。
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下弓削の夢池 (東合川)
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※翁・久留米碑誌269
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むかしゃ筑後川ん側ん田ん中ぁ雨んちよいと降りゃ水かぶるし、ちーつと干照のあっと、すぐ干割れ
ち往生しよった。下弓削もやっぱ水に難儀して上納んときゃ百姓ダン皆んな泣きよったち言う。どげん
米ん出来の悪かったっちゃ決定んしごは取りあげらるゝもんぢゃい。そっで村庄屋もどげんかして水に
困らんごつならんもんぢゃかち、いろいろ工夫するばって良か方法ん見つからん。そのうち庄屋どんな
年のいたけ息子に庄屋ばゆづって隠居せらしゃった。隠居してんやっぱ水のこつば考えござった。とこ
ろが明和七年ちゅうけ二百年ばっかり前になるが六月の十七日ん晩、夢の中で衣冠束帯の白髪の老人が
牛にのって来て隣村ん昼夜島ばさしながら「俺は農業を始めた神である。おまえは永年万民の苦しみを
救をうと水を欲がっておったから、その赤心に感じて今度水を与えよう。心して受取れよち言うて消え
らしやった。こん夢が三晩も続いたけ息子の庄屋に話し、村世話人達に話して、南隣の和泉村ん昼夜島
に行って見ると、水の湧き出よる所んあったけ、溝ば試しに堀ってみたらどんどん下弓削ん方さん流れ
ち行く「こりゃ神の下(クダ)さり物」ち手合せち拝み、村総出で溝ば本堀りして三日で仕上げちしも
うた。おかげでそりから水に難儀するこつぁのーなって米も良う出来るごつなり、庄屋どんな殿様から
ごほーびばもらわしゃった。こん話ぁ米府記事略ち言う本にものっとるげな。
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御堂島 (東合川)
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※翁・高良山略年表
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高良山座主隆慶上人が修業ば済まして、帰って来ござった。博多港から、ようよ鯵坂まで来て泊らし
やったが五月のこつで大雨つづきき、筑後川は大水なって、早よう帰らにゃ永いこつ留守しとるけ心配
で無理して帰りかからっしゃったところ、どーっと鯵坂部落は一飲みする津波のごたる大水の入って来
た。隆慶上人な一軒の家に難ばさけらっしゃったが、どんどん水あふえち来る。屋根裏そりから屋根ん
上に登って一所懸命、観音さんば念じられたがとうとう乗った家も流れだした、と不思議なこつ、ごー
ご流れよる濁り水の大川ば、上人の登っちゃる家ぁ流れに逆ろううちずんずん高良山の方に向ってぷか
ぷか浮いて行く。そうして二道島に流れついた。二道島の者(モン)な上人の御徳に感じ入って、流れ
つかしゃった所に御堂ば建てて観音さんば祭り、そりから御堂島ち言うごつなった。
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