高野ん毘沙門天(小森野)
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※媼
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昔のこつ。高野の大百姓ん若嫁御が子二人残して死んだ。後にや爺婆二人、男ん子二人とても男手ぢ
ゃ手のかぶらん。後添ば探しよったが、程良か女ごんおらん。村世話人も心配してくれた。ある時「お
まいげ居いとる、あの「おミヨ」ならどげんぢゃろ。小まか時から気心もわかっとるし、きりょうも良
し、働き手でもある、第一子供どんもなついとるけん」ち奨めた。爺婆に話したら良かろち言う。一家
内(イッケウチ)からは「素性んわからん、捨て子ぢゃったつば嫁ごにゃ」ち反対もしたが、男はおミ
ヨが嫁ごになつてくるるならもらうち言うた。おミヨも私がごつぁっとで良かならち承知した。そっで
芽出度う納まった。そりまぢゃ万々才ぢゃったが、夜渡(ヨド)ん晩爺婆がムゾがりすぎで、長男の四
っん子が食当りして一晩のうちコロッと死んだ。家ん者(モン)な死んだ理由はちゃーんとわかっとる
け良かったが、近所ん者(モン)が丘焼きち言うとぢゃろ、こそこそ言よる噂んおミヨが耳にちょこ、
ちょこ入って来て、風呂にどん行くと、ぴたっと話止めち、妙な目で皆がミヨば見る。見る眼も冷たか
。おミヨはほーんにつらかったが婿どんも爺婆も気にするこつぁなかち言うてくるるけ辛棒しとった。
秋祭の晩二つになる後(アト)ん一人息子が歯の痛かち泣き出えて頬紅端(フーベンタ)も赤う張れち
、一向に泣き止まん。おミヨは村ん噂が頭に来て、又死んどんするならち、気狂んごつなって水で冷や
したりフツの汁ば付けちやったりしてみたが泣きやまん。珍しゅ婿どんが「いつまっでん泣かすンな」
ち顔しかめちおごった。爺婆も「てーげに泣かせとかんの」ち文句言うた。夜中になってん泣き止まん
。おミヨはとうとう身投して死のうち思た。裏さん出て土手さん行きよったら大きな柿の木の下まで来
た時、ピカッち光りもんのしたと同時にガラッち一発雷さんの落てちうっ倒れた。どんくれ立ったかわ
からんが、真暗な中から見知らん甲胄つけた恐しか人が現われち「俺は、北から入ってくる悪魔、悪疫
、あらゆる災ば防ぎ止むる毘沙門天ぢゃ。皆こん久留米に悪か病気が北から流行って来た時、皆が俺を
迎えてあの藪(ヤブ)の道に祭ってくれたが、いつの間にか誰でん忘れち今はもう知っとる者もおらん
ごつなった、葛かづらに巻かれち、苦しゅうしてならん、俺を元んごつ人ん目につくとけ祭ってくれた
ならおまいの子の歯痛ばすぐ止めちやる。どうか明朝俺ばあの藪から出してザーとしたっで良かけ七五
三繩ば張ってくれ」ち言われたかち思うたら、ジャージャー降りの雨で気の付いた。おミヨは夜の明く
っとば待ちきらんごつして筑後川ん藪土手ば探して石の毘沙門さんば見つけ出し、人目につく土居道の
傍に立てた。言われたごつ七五三繩も張った。と不思議そげんして帰ったら子は歯痛ん止まってニコニ
コして「おっかさん」ち飛うで来た。そりから子の歯痛んときやこん毘沙門さんに願かくっと良うなる
ち言て参り手ん多うなった。
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タニシが池(小森野)
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※媼・筑後三、七、17
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昔、高野にとてもやさしか百姓が居ったげな。あんまり貧乏ぢゃけみんなから水飲百姓ち言われよっ
たばって娘が孝行者でそりゃ親子二人楽しゅうくらしよったげな。ところがどうしたこつか五年が間、
高野は大水が出たり日照り続きで、もう今年も米んとれんなら百姓止(ヤ)めち逃げ出さにゃんち言う
こつなったげな。庄屋どんも往生して毎年五月他所からまでやとうて来て、五穀豊穣の祈願ばせらっし
ゃったが効目んなかったげなけほんに困っちゃった。ちょうどそん時六部がこん村ば通りかゝって庄屋
どんから頼まれたげな。災難封じの五穀豊穣んこつたい。六部は、自分なそげん行(ギョウ)はまーだ
積んどらんけ祈願なしきらんが、どうして五年も続くか天帝に聞いてあげまっしーち言うて祭壇造って
祝詞んごつある経ば読上げちくれたげな。いっ時して「こりゃこん近うにある池ん主が人身御洪ばせろ
ち言いよっとで、巳年巳日生れで十五になる娘ば一人池に棒げにゃ今年も大雨大水になる」ち言うたげ
な。そげなムゴかこつぁ出けんち庄屋は思わしゃったばって村ん者(モン)全部が餓死せにゃんごつな
っとも困るもんぢゃけ、どうしたもんか村世話人ば集めて評議せらしゃったところ、しかたなか娘ば一
人人身御供にしゅうち言うごつなったげな。そっで急いで村総寄ばして已年の已の日生れの十五ん娘ば
調べらっしゃったげな。そしたら水飲百姓の孝行娘が一人居ったけん人身御供にちゃーんときまったげ
な。百姓は泣く力も無うなってボトボト寄会から家さん帰って来よったら苗代んとこに烏んやつがおじ
って何かつつきよるげな。よう見っとタニシげな。百姓は可哀想に思うち烏ば追い散らけーて、タニシ
ば拾い上げち、「おまいも親か子かおっじゃろ、烏に喰われたなら家ん者が泣くぞ」ち言うて、池さん
持って行って「もう浅かとこさん出るなぞ、こん池ん深かとけおれよ」ち池さん放り込うぢやらしたげ
な。家さん帰ってションボリして娘ん顔見っと涙ん流れちしょうんなか。娘がそりば見て「村ん為めな
らしようんなか、お父ちゃん覚悟は出来とりますけ、泣かんなおってくれんの」ち健気なこつば言うげ
な。いよいよ人身御供に行く晩になったけ村ん者(モン)も寄って来てお念仏となえ、白装束で輿に乗
る娘ば手合せち送ったげな。池の端に輿ば据えち村ん男しゃ帰ったけ一人娘は手合せち念仏となえよっ
たげな。夜中になったち思うたら、今まぢお星さんのキラキラしよった空ん急に真黒なってザーッち大
雨になったげな。そして娘はそのまゝ気失うつしもうたげな。朝になったら晩の雨はシラゴツのごつ上
って、高良山の方から目バイカお日さんの登ってこらしゃったげな、村ん者な念仏となえながら、ムゲ
こつち言いながら池んとこさん来てびっくり。大きな池は二つにするごつして大蛇が死んどるげな。そ
して娘は輿の上気絶して倒れとる。村ん者(モン)な「よかった、よかった」ち娘ば起して百姓ん家さ
ん連れち帰ったげな。池ん中ん大蛇にゃ、なんと何千何万ち言うタニシどんが吸付いとったげな。こり
ゃ百姓が助けたタニシが御恩返しにしたこつぢゃったげな。そりからこん池ばタニシが池ち言うごつな
って大蛇ん体んあったとこに土ん積って池は二つになったち言う話。
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