木屋平右ェ門とカワッパ(篠山)

※九州の河童一。第十話

 久留米ん殿様と福岡ん殿様とはほんに仲ん良かったげな。ある時福岡ん殿様から久留米ん殿様に何か 便りば家来の木屋平右ェ門に持たせちやらしゃったげな。平右ェ門ちゃ剣術も出来りゃ読み書きも上手 な侍ち評判の家来ぢゃった。ようよう宮の地まで来たら梅雨時のこつで筑後川は馬ででん舟ででん渡ら るるだんぢゃなか大水で、濁った泥水のゴンゴン流れよるげな。船頭にどげん頼でん死ぬごつぁるこつ ぢゃけ嫌ち言うて誰でん舟ば出しちゃくれん。「よーし」ち平右ェ門なヘコ一本になって刀、着物、書 類ば頭にきびっつけち、船頭どんが止むっとも聞かんな久留米さん向って泳ぎ出した。黒田流水泳の達 人ぢゃけ、渦巻いて流るる大川ばうまいとこ泳いでいく。もう十間ぐれで久留米ん岸につくち言う時、 急に回りの波立って平右ェ門が足ば、掴(ツカ)むもんがおる。「おのれ」ち平右ェ門な足とっとるそ ん手ばぎゅつち握ってそんまんま岸泳ぎつくなり、ボーブラ投げしてそん奴ば地でにタタキつけた。「
ぎゃっ」ち一声あげち化物の死んだつば見っとカワッパ。さー久留米んお城についてとてん殿様からん
、家来どんからん、そん勇気と武芸の達者ばほめられたげな。ところが福岡さん帰るなり殿様からほめ らるるどころか、ぎゃすちおごられたげな。どげん武芸がでくうと、やるこつが無茶ぢゃ。武士ちゃぁ 戦で死んとがほんなこつに、なんちゅうこつか、以後慎めち。ばってそん後、褒美(ホウビ)にお酒ば やらしゃったげな。

有馬御殿の怪(篠山)

※久留米同郷会誌三31

 久留米藩の第七代目の殿様ん時、ち言うけ約二百二、三十年前んこつ。御殿の殿様ん部屋は二重張の 天井ぢゃったつに、夏のある晩いやな風ん吹いて来たかち思うたらズシーンち髑髏(ドクロ)ん落ち来 て殿様(トノサン)な気絶せらしゃって大騒動。又寝てござる畳の、上さん突き上げられち大揺れして
、ゆつくり寝るこつも出来ん、もう往生してしもて殿様(トノサン)な福聚寺ん古月和尚さんば呼うだ り、徳雲寺さんば呼うだりしござった。ばって、真夜中になっと嫌な気配の御殿ば包うで御都屋に置い とる宿直の犬が妙な声あげち騒ぐし、寝ずの番の侍だん、身の毛んよだって恐しゅうしてこたえんぢゃ った。こりゃ宝暦一揆ん時、我がやり口の悪かつぁ棚に上げちあげんムゴか仕置ばせらしゃったけ、仕 置受けた者(モン)どんが怨霊ん、移り変り殿さんに崇りょっとぢゃろち、蔭でみんな言いよった。そ りから此りゃ何時かようわからんが、四百年ばっかり前久留米ん殿様になった毛利秀包ん御母さんの幽 霊が杖ついて、芭蕉の間さん夜中は出て来ござったち言う。

お堀のビキ(篠山)

※続市誌545

 むかし殿様ん病気して寝ちゃったげな。夏のこつぢゃけ、じ一っと寝とくとだけでん、やをなかつに お城ん堀から夜昼かめなしビキどんが鳴き立つるもんぢゃけ、殿様(トノサン)ないらいらして「あん ビキの鳴かんごつせろ」ち小姓どんに言いつけらしゃったげな。小姓だん長んか竹竿で堀の水ばバタン バタン打っちゃ鳴くとば止めよったが、切りのあるこつぢゃなか。そっでくたびれち困っとったとけ、 殿様ん病気見舞に古月和尚さんの通りかゝんなさって、わけば聞いち、うなづきながらお城さん登らし ゃったげな。いっ時したら和尚さんの何か書いた紙ば堀に投込うでサラサラ珠数もうで祈らっしゃたげ なりゃ、ピタッとビキの声んせんごつなったち言う話。

栴檀島ん鬼火(篠山)

※翁.宮司

 夏のショポ、ショボ雨ん降る晩な、よう栴檀島に火の玉ん出よった。旅の空で患うとる男ば一所懸命 介抱してあげくの果にゃ殺されたち言う怨の火ぢゃけ、なかなか消ゆるもんぢゃなかっぢゃろ。一晩中 でん出よったがムゾか話たい。そりゃまーだ御一新になる前んこつ、久留米ん或る商人が江戸に登る途 中大阪で患うた、そん時旅籠んお初ち言う女中が、親身も及ばん介抱ばしてくれた。冬ん寒か最中、朝 早う水垢離とって神さん参りまでして、ほんに至れり尽せりの看病のお蔭で元気になり、路銀の心配ま でしてもろて発(タ)っていた。若っか者同志のこつぢゃけ、そん間に仲良うなって夫婦約束まで出け とった。お初ぁ男が二タ月したなら江戸からん帰り寄って久留米さん連れち行くち言う言葉ば喜うで同 輩どんから冷(ヒヤ)くらかさるるばって嬉しかばっかりで、旅の用意、世帯持ってん工面で胸んはち 切るゝごつあった。いよいよ二タ月ぁ過ぎた。何の音沙汰もなか。そりから二、三日、一ト月ちたった ばってん便りんなか。たまらんな江戸さん便り出したところが、もう男はニタ月前久留米さん立ったち 言う。まさか、あげん堅か約束ばしとっとに、もう腹ん中にゃヤヤも入っとっとに、腹も立ちゃクヤシ ュウもあるが、何か特別の用件の出けたっぢゃろち、自分で自分に言い聞かせながら、とうと耐らんな ブッソか世の中になっとるばって一人で大阪から久留米さん身の重かつに旅立った。途中基山まで来て
、嫁になる者が迎えも無し、家に入るちゃ法知らずち思わるけ、お初ぁ基山ん旅籠から迎い来てくれち 便り出した。そん便りば見た男はビックリたい。ちゃーんともう嫁御もおりゃ子までおって、我が身は 養子ぢゃもんぢゃけさー困った困った。手紙ば懐中に捻じ込うで、嫁御にゃ知らん振りして、「用ば思 出(オメデ)えたけ基山まで行てくる。夕飯ゃいらん」ち、ちょいと旅支度して家ば出た。男は道々迷 うた「お初ぁ命の恩人ぢゃある、がもう子もおる俺ぁ養子の身どうもこうも出来っるこつぢゃなか。可 哀(ムゴ)かばって殺そ」。悩(ナヨ)うだあげく、こげな恐しか考えになった。基山に着くと、お初 ぁもうめった喜びで、怨も忘れち取すがった。昼過ぎなって「もう一刻もすりゃ日も暮(クリ)う、ぼ ちぼち家さね行こうか」ち、こう言うて旅籠ば出た。疲れちもおる女御ん足ぢゃけ水屋渡ったら日の暮 れちポッポッ雨ん降って来た。高野の岸ぁ笹籔、草原で猫ん子一匹通らんで真暗闇、男はしっかり手ば 握ってよりそうとるお初ばパッち振りのけち道中差しば抜くが早かゝ胸ば一突した。お初ぁたった一声 「アンマリ」ち言うて倒れた.心臓ば突(ツイ)たっぢゃろそりぎり動かん、お初ばずるずるっち引ず って筑後川さね投込うだ。雨はなお降りよる。男は何喰わん顔して久留米ん町さね帰って来た、家にゃ 夕飯ぁいらんち言うた手前、通りかかった夜泣うどんば喰おでちした。「うどんば一杯くれ」ち言うと
、うどんやが「へい、あ御新造さんないらんですか」ち言うたもんぢゃけ、ぞーっとして、「もういら ん」ち震(フルイ)の出て逃ぐるごつ町中に入った。酒なっと引かけち帰らにゃもてん。飯屋に入って 酒と飯ば頼うだところが、女中がお茶ば二つ持って来て置く。もう男は青うなってしもうた。そこもこ とわって、ようよ家さね帰った。家ぢゃ男ん様子ん違うてわけんわからん浮言(ウワゴツ)ばブツプツ 言うてガタガタ震いよる、こりゃ野狐んついたっち大騒動になった。明けん日はよかお天気、と「栴檀 島に殺された上方ん女御ん流れついとる」ち言う噂んバーッと久留米ん町流れた、胸ば一突されたお初 のあわれな姿ぢゃった。男はすぐつかまって獄門にされたが、そりから栴檀島にゃ夏の雨んふるばん、 かならず火の玉ん出るごつなった、ち親父が話よった。(筑後川ん改修で島が無なってしもうて、こん 話も知らん者ばっかりなった。)

恋の怨念(篠山)

※筑後七・七・13.15

 昔、庄島に殿様お抱えの外科医が居ったげな.その女房が美男子の弟子に横恋慕して、恋敵の上女中 ば不義密通したち責め上げ、おまいが生きとったら男も同罪ちおどかして、とうとう自殺に追込うだげ な。女中は怨の書置ばして井戸に飛込うでムゾなげ死んだち。そりからいっ時して外科医も死んで、息 子が後ば継いだげな。年も若っかし経験も浅かけ、なかなか先代のごつはなかっとけ、殿様の一番お気 に入りのオキサの方ん尻に瘡(カサ)ん出けち、殿様からすぐ治せち命令されたげな。息子が早速ぬり 膏薬ば造って上げたところがかえって膏薬かぶれしてひどなったげな。殿様はばさろ腹かいて、そん弟 子の美男子に治すごつ命令せらしゃったげな。弟子や瘡ば見てこりゃ性変りしとるけ今んとこ薬はあり まっせん、いっ時模様ば見て薬ば造ってみますち申し上げたげな。息子はこの下手糞(クソ)ち謹慎さ せられ、お抱え医者ば首になってしもうたげな。息子は自分が下手んこつぁ思わんな殿様ば怨うで市の 上の御殿から帰りござっとば竹砲で射っておしおきにされ、お家断絶になってしもうたち言う。美男子 の方は、おキサの方の瘡ばようなして、御殿医になり、いよいよ上手ぢゃ名医ぢゃち言われたげな。息 子の家が断絶なってから町ぢゃ、井戸に飛込うで死んだ女中の怨念ぢゃろち評判になったげな。

祇園寺(篠山)

※篠原稿

 昔、篠山に祇園寺ちあったが、四百五十年ばっかり前んこつ。久留米に悪か病気の流行ってかかった 者(モン)なバタバタ死ぬもんぢゃけ、殿様でん百姓でんこん祇園寺の牛頭(ゴズ)天王に、千燈明上 げち、百万遍のお詣りしていっしょけんめいお祈りしたげな。ところがピタッと病気の止まってしもた げな。殿様は喜うで祇園寺に五十丁ん田畑ば寄付せらしゃったち。

篠山大膳稲荷(篠山)

※篠原稿

久留米ん二代目の殿様忠頼公が夕方庭ばブラブラ歩きござったら篠山んうしろから年のいた狐がぢーっ と殿様ば見よったげな。そん明けん日も狐が出て来て何か頼みたかごつぁる風で見よったげな。殿様は どん狐でん稲荷さんのお使者で死んだなら神さんに祭ってもらいたかち言うこつば知っちゃったけ、「
狐よ、押様に祭っられたかなら、それだけん霊力ば示せ、そしたなら神社ば建てゝ祭っちゃろう。そう ぢゃ碁盤が欲しかが、明日持って来てくれんか」ち言わしゃったげな。そん明ん朝早よう侍が庭廻りば しよって、碁盤ば咀(クワエ)ち死んどる狐ば見っけて殿様に申し上げたげな。殿様は「たしかに霊力 を見とどけたぞ、神社に祭るけ、安心して成仏せよ」ち狐に言われち、お城ん二の丸に大膳稲荷ち社ば 建ててやらしゃったげな。こん社は初手は篠山ん鐘紡工場ん入口あったが今はどけあっぢゃい。

お姫さん(篠山)

篠山神社   ※宮司

篠山さんの西の桝井戸ば、右廻り三遍、目つぶって廻って、井戸ん中ば見っとお姫さんの見えらす、ち 言よった。

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