幽霊屋敷(庄島)
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※筑紫野民譚集460
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元弘ち言うけ今から六百五十年ばっかり前んこつ、庄島に三原次郎知久ち言う侍が住んどつた。一人
息子ん久安が二十才の時、嫁御ば貰うてやり孫が一姫二太郎で生れ、そりゃーほんに楽しか毎日ぢゃっ
た。嫁御は熊代民部輔の娘でとてもやさしかったが一姫の女ん子が十二、男ん子が九つの時、ちょいと
した風邪がもとになって死んでしもうた。男世帯で子もおるし、とても不自由するとば友達が見兼ち、
筑前の芦屋から後添いば世話した、年ぁ若っかし、良か女御ぢゃったけ久安ぁもう後添い惚れ込うでし
もて子供ん事も忘れてベタべタぢゃった。父の知久は孫がムゾして、久安に「まちった嫁御ば躾せんか
、今時継子いじめんごたるこつぁ見苦しか」ち注意するばって聞くこっちやなかった。そのうち後添ぁ
腹ん太(フト)となった。岩太帯の済んでからは、いよいよ継子いじめんひどなって知久は孫ば前に涙
こぼすこつが多うなった。ところが戦ん始って知久も、息子ん久安も殿様について出陣せにゃんごつな
った。知久は孫に心残し、久安ぁ嫁御に心残して出ていった。さーそん時から後添ぁ二人の孫ば虐(イ
ジム)るのなんのち、毎日ヒーヒ言う泣声ん屋敷の外さん聞えた。嫁御は腹ん中ん子に後ば継がせにゃ
ち思いつめちとうとう或日、二人の子ば殺そうち短刀ぬいで追い回った。可哀そうに男ん子は縁側んと
こで刺し殺された、が姉は屋敷ん中ば逃げ回って庭さん飛び出した、そりば追うた嫁御は庭石にひっか
かって我が持っとる短刀で我が胸さして死んでしもた。助かった姉は親類たよって行たが、嫁御ん執念
怨霊に取りつかれちとうとう死んだ。そして知久も久安も又戦死して三原家はたえちしもうた。知久、
久安の戦死の報せば持った早や馬ん使者が日暮れに留守の屋敷ば尋ねち来た。頼もうち呼うでん返事の
なか。夕方のうすぐらかつに、屋敷ゃ、シーンとして妙にゾコッち身震いのするごたる。家の中にツカ
ツカ入ってみた。カビ臭か匂い。奥座敷に入ってびっくりした。血まみれんなった女ごがニタニタしな
がら短刀片手に立って手招きする、矢玉ん下ばくぐり抜けて来た戦場慣れしとる使者もさすがん姿に逃
げだした。逃げ出すと血まみれんぬけ首の女ごが横ん方から笑声立てちスーッと出て来た。そりから三
原屋敷ぁ幽霊の出るち言う噂ん立って、誰も後に住む者もおらず屋敷の塀にや葛ん這うて荒れ放題なっ
てしもうた。葛塀町の幽霊屋敷ちやこんこつば言うとたい。
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幽霊橋(庄島)
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※筑紫野民譚集460
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荘島ん幽霊屋敷の横丁ん橋に女ごん幽霊の出っち言う噂ん立ってから、がたーっと葛塀丁んにきや日
の暮るっと通る者の居らんごつなった。「今時そげな馬鹿な話があるもんか、俺がいっちょ試めしてや
る」ち腕の立つ侍が一人、むし暑か晩、橋のとこに来て立ってみた。いっ時ぁ帰ろうかも思うごつ何ん
の変哲もなかったところ夜中になったら、生臭か風ん吹いて来て、ほうそか声で「葛塀の幽霊ぁ今でん
迷うとる」ち悲しかごつ言うとん聞えち来た。だんだん声ん近うなって来たかも思うたら血まみれにな
った女ごん幽霊が姿見せち、侍の手ば握ろでちした。と侍や腰ばひねってサッと居合抜きでコロッと女
ごん首ば切り落した。侍やそん首ば首桶に入れち奉行所に届け出た。幽霊ん首ち言うが間違なう人間の
首、こりゃ誰かば辻斬したつかも知れんち奉行所ぢゃ役所ん隈に葬むって、被害届ん来っとば待っとっ
たが、半年たってん届けんなか。不思議に思うて、首桶ば掘り出して蓋あけたところ、パッち白か煙の
出て中はスッカラカソの空ッポぢゃった。もう幽霊や出らんごつなったが、そりからこん橋ば幽霊橋ち
言うごつなった。
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お仙八太郎(庄島)
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※姐・初手物語179
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幕末の頃、江戸詰もやった庄島ん八太郎ち言う侍が、さびしかいき女ごつくって夫婦約束まぢしとっ
たが、黙って久留米さね帰って知らんふりしとったげな。ところが女ごん腹にや赤子ん入っとったもん
ぢゃげ一日一日腹ん太なって、女ごがたまらんな後追うち久留米さん来たげな。江戸からん長道中ぢや
つたが、幸い徳雲寺の和尚さんと道連れになったもんぢゃけ無事久留米について、庄島に今着いたけち
知らせたげな。ところが八太郎にゃ嫁御も居りゃ子供まぢ居ったげなたい。さーそっで、すったもんだ
したばって、八太郎は囲うごつぁる身分ぢゃなし、どんこんしきらん、困ってしもて家にゃ「急に江戸
さん行かにゃんごつなった。隠密ぢゃけ、親類にでんこん江戸行きば言うちゃなん」ち口止めして江戸
から来た女ごお仙にもむごちょこ言うて「さー江戸さん帰ろ」ち宿屋から朝暗かうち連んのうて出て豆
津ん浜ん、長んか葦の生えとるとこで切り殺したげな。そして八太郎はそのまんま江戸ん方さん逃げた
げな。昼飯時なったけ宿場ん茶屋に寄ったら女中がお茶ば二つ出すげな。「おりゃ一人ぞ」ち八太郎が
言うたら「隣の奥様にゃいらんとですか」ち。ゾーッとしてそこん茶屋ば逃げ出えて晩に宿屋に泊った
ら、此処ででん、お膳ば二人前持って来るげな。もう八太郎は先さん行かれんごつなってフラフラして
久留米さん引返して来たげな。久留米ぢゃ上方(カミガタ)ん女中が斬殺されたち言うこつで大騒ぎぢ
ゃったげなたい。いろいろ詮索のあげく八太郎ちわかったげなもんぢゃけとうとひっつかまえられち打
首なったげな。三瀦方面にや「お仙荒籠のいわれ」。小郡ぢや油屋騒動。篠山ぢや「栴檀島」ち同じ話
のある。
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