川浪家と河童(山川)
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※篠原稿
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昔、山川町に川浪ち言う家んあった。ある時、此処のお父ちゃんの馬つけ堀に馬ばつけちゃったら河
童が出て来て、絆(タズナ)ばほどいて深みに引込もでちして反って馬から引づられち、お父ちゃんに
ひっつかまった。「手でんなんでんたたっ切る」ち腹かいて鎌は振り上げらしたら、「命だけは助けち
くれんの、そん代り、こりから先あんたげん者にゃ水の災難の無かごつする。「俺ぁ川浪」ち言うても
らや誰でん水難から守るけん」ち、ことわり言うたけ許してやった。ほんなこてそりから川流になる者
なこん村から無かごつなった。呪(トナ)えごつぁまちっと長う言いよったが忘れっしもた。
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旗 崎(山川)
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※筑後志204
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神功皇后が熊襲征伐か三韓征伐の時、古か船は大善寺に、乗捨ち、新しか船で酒見さね下らっしゃっ
た。そして異国征伐の御願成就の御礼に風浪宮の九十九社に参られち、又船に乗って黒崎まで行かしゃ
った皇后は、黒崎に上陸されち、住むとにゃ何処が良かろうかち見回さっしゃった。東北ん方に山ん続
いとっとこが良かろうち、御旗ば三流れ投げらっしゃったら高良山の本殿の上に飛うで来て立った。風
に吹かれち立った旗ん先が此処ぢゃったけ旗崎ち名ばつけらっしゃった。
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二十五仏の滝(山川)
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※続市誌526
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高良山な広か筑後平野ば一目で見らるゝけんか、古からお城にされち、よう戦いの場になっとります
。お宮さんの東の特に鶴ケ城山は、険わしゅうあるもんですけ、攻め寄せる方も防ぐ方も相応な死人ば
出し、戦(イクサ)ん終わりゃ坂も平地も、討死した者がごろごろして、戦争ん冷たさ。そん死骸や雨
風にさらされっぱなしで誰も供養するこつぁなかもんぢゃけ、暗か晩なただ風の音に合せち、武者の亡
霊どんが合戦ば続くるトキの声、矢叫び、馬のイナナキ、蹄ん音が下ん部落の方さんしてきよったち言
われます。いつごろか、そりがあんまりかわいそかけち、あすこん滝の側に石仏さんば祀って供養し始
め、その石仏さんが二十五体あったけ二十五仏の滝ち言うごつなり、上ん方の十三仏の滝もその十三石
仏のあるけん言うとだそうです。誰が供養初めらっしゃったつか名はわかりまっせん。
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殺生石(山川)
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※翁・筑紫野民譚集465
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高良山なお城にすっとにゃ一番良か山ぢゃけ昔からよう戦んあっとった。いつん戦いか知らんが山川
から登る参道で、攻め手が強(ツヨ)うしてもうこり以上防ぎ切らんごつなった時、釆配ふりよった侍
大将が流れ矢で討死した。上から味方ん来っとばまって、いっ時ぁ戦いよったばって助けは来んし、と
うとう死んだ侍大将ばそこに埋めち、戦ん終った後で、葬うごつ目標の石ば置いて退却した。戦で退却
し始むっとムゲーもんで攻め返すこつぁでけん。とうとうそこに埋めたままになってしもうたろうち言
うこつたい。そっでそん置去りされっしもうた大将ん怨ぢゃろうか、こん石に腰かけたり、すわったり
すっと後で大患いばするか、早死するかげなけ「人トリ石」ち言うて誰でんえすがっとるげな。
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安国寺利生塔(山川)
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※三井めぐり71
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足利尊氏がふてーがってな料見起したもんぢゃけ、何処ででん、いらん戦ん始って百性子供まぢが難
儀して日本国中が往生しよったげな。尊氏ぁそんみんなん怨で毎晩寝とっとウナされち、大熱のさして
いつ死ぬか分らんごつ体ん弱ってしもたげな。そっで弟ん直義が夢窓国師ち言うえらか偉か坊さんに、
如何したなら良かろかち相談したところ、夢窓国師の言わっしゃるこつに、「そげんなっともわが慾の
ため、罪とがも無か者まぢ戦で殺した罰ぢゃ。ちっとそっとん供養ぢゃなおらん。大事(オオゴツ)ば
って六十余州にお寺ば建てち、供養塔ば寄付せんの。」直義は喜うで兄ちゃんの尊氏に話すとすぐ全国
にお寺ば建て供養塔ば寄附したげな。山川町の安国寺さんもそん時のお寺で、利生塔もお寺ん裏ん田ん
中に今でん建っとる。尊氏ぁそりから達者になったげな。
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安国寺の塚石(山川)
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※篠原稿
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山川町の安国寺さんな古かお寺で、足利尊氏が建てたお寺さんの一つげな。此処にゃ昔から大きな塚
んあって、そん塚ん上にゃ太か石の乗っとったげな。なんでん元寇(コウ)ん時、此ん筑後川に舟橋ば
造ってサツマ、肥後ん武士は博多さね行かせた智エ者神代さんの子孫神代弾正の墓ち言われとる塚です
たい。ある時、こん塚ん石ば石段に使うたなら良かろち、何代目かんお和尚さんの止めときゃよかつに
、村から加勢ば呼うで直さしゃったげな。ところがその晩パタッと和尚さんな眼の見えんごつなって、
カセ人な五人が五人、大熱のさして大騒動になったげな。こりゃ塚石の祟りばいち言うてもうすぐ明け
ん日にゃ塚ん上さね石ば戻さしゃってコトワリの供養ばせらしゃったげな。そうしたらケロッと和尚さ
んな見ゆるごつなりカセ人な熱のコロッと引いたげな。やっぱ崇りちゃあるもんぢゃろの。こん石ぁ今
お堂ん前に祭ってあるち言うこつ。
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