編集後記

村制百周年を迎えました平成元年に、記念すべき歴史の節目として「矢部村誌」の刊行を企画いたしました。

わがふるさと矢部は遠く縄文、弥生の古代から、とくに八女津媛にまつわる「日本書紀」の伝承から推定し、歴史も豊かに色どられた山郷と称しながらも、村のなりわい、来し方この方を鳥瞰し得る記録を持ち得ませんでした。

これまでに、明治三十一年、当時の坂本虎之助村長、宮内助役、八名の村役場調査員、それに九名の方面調査員の手によって、当時の村の実状を周到にまとめあげられた『村是』があります。その後、昭和初年代に当時の矢部小学校長馬場豊二先生の尽力による『八女津媛山探勝記』がまとめられていますが、この刊行に際しては、当時中国大陸に渡り、実業家として活躍されていた栗原治平氏の発起と絶大な後援によるものと記されています。郷土を理解することの大切さを深く認識されていた先覚者として敬意を抱かされます。

昭和三十四年には、日向神ダム建設に際し、『水没地帯を中心とする矢部村の歴史と民俗』が福岡県文化財調査報告書として集成された一冊があります。この報告書は、歴史学者で知られる檜垣元告先生をはじめ、郷土史家の筑紫豊先生方の実証的な踏査によるものだけに、貴重な文献として私たちはこれを拠りどころにして村の文化を紹介することしばしばでありました。のちには昭和四十一年、これまた矢部小学校長であった杉森彬先生が「郷土教育資料」としてタイプ印刷でまとめられた冊子三冊、これのみが村を語る伝承録であったわけです。

そこでこうした先達者の志をつぐべく集大成を思いたちましたものの、資料収集から難航、障害多く、挫折感を覚えたことも再三でありました。

しかしながらこの間に八女津女子高校教諭宝理信也先生、前矢部中学校教頭松尾重根先生の多端な校務のなかでの執筆協力、また収録編集、写真、その整理を担当してくださった「ぎょうせい」出版の楠木俊一さん、吉見哲司さん、写真家の吉住美昭さん、また編集全面にわたって献身の前矢部中学校長松尾文郎先生には深甚の謝意を表します。

ともあれ紆余曲折ながら、村民のみなさんへ、新しいふるさとづくりの精神的資産として、ひもといていただく「矢部村誌」をお届けできるはこびになりました。この一冊を手がかりに、将来矢部をになう人びとに、さらに充実したものを編んでいただく日があることを願い、ご支援の関係各位に感謝しながら、編集のあとがきといたします。

教育長 椎窓 猛


「私たちの生活は、すべて歴史である。歴史に無関心であることは、自分の生活に無関心であることであり、自分の生き方に責任を持たないことである」という。

そういう意味で、ふるさと「矢部」に生き、ふるさと「矢部」を愛し、その発展を願う私たちは、まず、ふるさと「矢部」を知ることから始めなければならないと思うのである。

平成元年度から、椎窓猛教育長を編集委員長として九名の編集委員が、村誌編集にたずさわってきた。編集委員のほとんどが役場職員や学校の現職とあって、本務の合い間を縫っての資料収集や編集作業であったので、作業は遅々としてはかどらなかった。この限られたスタッフと実質三年間という限られた期間であったから、編集員一同、心のあせりを禁じ得なかったのが実情であった。

しかし、先達の残してくれた貴重な資料や文献を参考にすることができたのは幸いであった。先達の労苦を多とし、心から敬意と感謝の気持ちを表するものである。

編集方針として
一、刊行の趣旨を編集の基軸として、親しみやすく読みやすいように編集する。
二、村の全貌を紹介し、村の成り立ちがよく理解できるようにする。
三、視覚的にもとらえやすいように写真、図絵を豊富に入れ村のイメージを明確に浮き彫りにする。
四、史実に忠実に各編、各章のテーマを明確にし、内容が端的に理解できるようにする。
五、矢部村独自の記録(ドキュメント)を発掘する。

ことを念頭において編集した。

この編集方針に沿って、村の全貌、成り立ちがわかるようにするため、自然、政治、産業、経済、教育、文化、ふるさと創生と全般にわたって「村誌」とした。

にもかかわらず、編集委員の力不足から、十分編集方針に沿っているとは思われず、村民の皆様の満足されるような村誌になっているか不安である。

その期間、村内はもとより、歴史の南北朝にまつわる調査では、八代、菊池、小郡などまで出向いて、資料の裏付けや写真撮影を行った。行く先々で、懇切丁寧な御指導、御教示をいただき、たくさんの方々の好意に接することが出来たことは幸いであった。

ここに御協力をいただいた方々に心から感謝の意を捧げます。

編集室長 松尾 文郎

編集委員 一同   




村誌編集委員名

編集委員長 椎窓猛(矢部村教育長)  編集室長  松尾文郎(元矢部中学校長)  編集委員  宝理信也(八女津女子高等学校教諭)  〃     松尾重根(上陽町立上横山小学校長)  〃     和合勇吉(企画財政課長)  〃     古川 洋(矢部村教育委員会次長)  〃     高山 満(住民課長)  〃     江良廣次(産業振興課長)  〃     新垣明則(総務係長)  〃     小森清実(農林土木係長)


ひらけゆくふるさと矢部

平成四年三月 発行  編集 ひらけゆくふるさと矢部編さん委員会  発行 矢  部  村  福岡県八女郡矢部村大字北矢部10528  〒834−14 Tel(0943)47−2122


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