SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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だんご汁 | ||
営所ん出来た頃は日曜日が休みで、水曜日が半体じゃった。村うちの家のお座敷てんば、そ ん時だけ貸してくれち兵隊さんどんが、あっちこっち借っとった。うちに帰ったごたる積り で、ゆっくりしときたかち云うこつで。 うちにも貸してくれちじゃけん、いっ時ばかり貸しとった。大田黒てろ云う熊本出身の下 士官じゃった。時々ゃ家から妹じょち云う元気のよか姉と妹ち云うて来たこつもあった。う ちに女二人が刀差して男袴穿いて、真ン中に兄さんち云う兵隊さんが写っとる写真のあろう がの、ありがその人達たい。 いつか友達ば何人か連れて来て何か食ぶるもんななかじゃろかち云うてばってん、何にん無 かし、ちょいと店も無かけん、困ったち思よったりゃお台所さん出て来て、大鍋にだんご汁 の出けとっとば見て、こっでよかち云うて、木で出けとる大っかだご杓子ばつまみ上げて、 こりゃ何じゃろかちじゃけん、だご杓子、ち云うたりゃ、こーりゃ珍らしか、そんなら、だ んご汁にそのだご杓子ばつけて出してくれちじゃけん、 大丼に一杯入れて、だご杓子つけて出したりゃ、ほーんに美味しか、もういっちょ呉れちじゃ けん、また一杯入れて出したりゃまた直ぐ空にして、もうひとつちお代りが来て何辺もお代り、 お代りで、大鍋じゃったが大方空になるごつ食べて、ああ美味しかった、そんにこのだご杓 子が値打ち物じゃちめった喜びじゃった。おかげで、うちは大急ぎでまたうちんとば炊きかてたたい。 だんご汁てん何てんな、なったけごうほん炊いたが美味しかもんの。うちゃその頃大人数 じゃったけん、おむしのおつけ(味噌汁)に団子と時々のお野菜どん入るる位じゃったが、い まはあげんおいしか団子汁は食べられんたい。 いつか娘んころ、山本に行ったりゃ、おうち の団子汁は、ほんと美味しかけん。どけんしなさるか教えなさいちじゃけん、うちでしよる ごつして上げたばってんどうもうちんとんこつ美味しう出けじゃった。やっば量の多なから にゃいかんごたる。 うちでは、ばばさんが食べ物の苦情ば一番云よんなさった。ほかん者な、何にん苦情は云 はんもん。お祖父っつぁんな気六つかしかごたったばってん、食べ物で苦情云いなさったこ つは一辺も無かったもん。ばばさんの何てん彼んてん云いなさっと、お祖父っつぁんの、「多 かなら多かごつ、少なかなら少なかごつ黙って食べっさい」ちばばさんば叱りょんなさった。 ご飯でん何でん、多うついだの何のちばばさんの云よんなさっと、お祖父っつぁんの、「俺や 黙っとるけん、丁度良かごつついである」ち云よんなさった。 つんしゃんがお給仕するときゃ、自分が、めのはのお汁ば好いとるもんじゃけん、ばばさ んのお椀にめのはばたーくさんつぐもん。ばばさんな、お汁ばかりに中味はちょっとでなか らにゃ好きなさらんとじゃけん、つぎ直せち云いなさっと、「めのはのお汁は美味しうござい まっしゅがの」ち、うまいこつ進むるもん、そっでやかましやのばばさんも、とうとう食べ させられて仕舞よんなさった、つんしゃんちゃ面白か女じゃったけん、つんしゃん、つんし ゃんち、仲間どうしにも人気のよかったたい。 |