SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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隈 山 | ||
お祖父っつあんのおんなさった頃は、お仏さんの御命日にゃ、必ず隈山にお墓参りしよん なさったけん、あたしもこまか時からよう一緒について行きよった。うちから三丁ぐらいし か離れちゃおらじゃったもん。お祖父っつあんのお線香上げたりして拝みよんなさるうちに、 お墓山の裏の山ん田の方てん、川とお墓山ん間の松林のなかさんてん行ってめづらしか羊歯 てん灌木てん草花てんば取って来て、うちのお露地にどん植え込うだりしよったたい。 あの辺にゃ茅花(づばな)もあるし、土筆もあるし、草苺、木苺の生えて、葛の花、野菊、りんど う、ききょう、女郎花、萩、ち云うごたるいろいろの花の一杯咲きよったたい。 お墓山の裏から北の方さんかけて、はぜ畑のあったとこにゃ、ほととぎすのよう居ったも んの。夏の夕方だん、ボーツ、ボーツち、はぜの枝から枝さん飛びかうたりしよった。ほと とぎすも何種類でん居るとじゃろう、ここの辺にゃ、テッペンカケタカ、ちきこゆっともよ うおったが、カッカッカッカッ、ち一句。づつ句切って夜通し鳴き通すとが多かったたい。 夜の明け方近うだん、よけいほーんに降るごっ鳴きつづけよった。毎年みかんの花のにおい のするごつなると、ほととぎすが鳴き始めよった。隈山のあたりがよけい声のしよった。 山道のすぐ横に大っか山柿の、秋になっと真赤になりよったし、松林に絡まっとる蔦どん もほんに美しう紅葉しよったたい。お墓と川の問は、おっ母さんの御(ご)葬式後までは赤松 林じやったが、そののち松の枯れて、楠どんが生え代ってだいぶん大きうなりよったが、終 戦後は、様子の変ってしもうて、畑になったり豚舎が出来(け)たり、家が建て込うで来たり で、ほんに変れば変るもんのー。 |