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    お釈迦さん
   
  お釈迦さんな旧暦の四月八日じゃった。生まれなさった日たい。
  天道花(てんとばな)ち云うて、ちょうど花盛りになっとる山つつじと、春菊の花ばたがい 違いに束ねて、竹竿の天辺(てっぺん)に、竿と十字形になるごつ、きびっつけて、どこでん 表の門口(かどぐち)のにきに立てよった。

  日渡(ひわたし)の正福寺にゃ、あざみの花で屋根葺いた小ーまか四本柱のお堂の中に桶置 いて中に、からかねのお釈迦さんば立てて、甘茶ば入れてあるけん、子供たちゃ竹筒持って 甘茶汲みち行って、そのお釈迦さんに桶の甘茶ば竹びしゃくでかけて、自分の竹筒にも一ぱ い汲んで来よったたい。

  旧暦二月十五日のお釈迦さんの時ゃ、どこでん麦ば煎って、「こうばし」ば挽きよったけん、 子供どんがみんな「こうばし呉れんのー」ち云うて、どこでん貰うてさるきよったたい。ど こでんのこうばしにゃお砂糖のは入っちゃおらんばってん、うちのこうばしにゃ黒砂糖ばこ う揉みこんで入れとったけんで、みんなが「真藤さんのこうばしゃ、砂糖のはいっとるけん、 ほかんとこんととは別にしとけ」ち云うて別に包みよった。

子供どんなぞけんして貰うたこうばしば口一ぱいに頬張って、誰彼(だりかり)なしにぷーち 吹きかけてさるきよったたい。

  お釈迦さんのお命日じゃけん、人ん悪口どん云わんごつ、こうばしどん口に頬う張っとくご っち云うこつげなたい。


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