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    お観音さんの"よど"
   
  お観音さんの"よど"ん時や、宿で饅頭ば作りよった。娘どんが組内ば廻って麦粉と干した 夏豆(そらまめ)ば貫いて来て、夏豆餡入れて作りょった。おろ甘かった。餡にあまったつは お砂糖入れて煮てお茶受けになりょった。

  お観音さんのお堂にゃ幕どん張って提灯どんつけて、お燈明どん上げとりょった。娘どん が何人でんお賽銭(さんせん)番ち云うて居りょった。小まかお堂は二、三人どん番しとりょ った。"よど"の世話役は娘ん子どんじゃった。

  組々でひとつづつお観音さんのお堂ば持っとった。清水んとこばこう北に行ったとこにあ るお観音さんな、敷地の広かったけんで店どんが出よった。ちょいとしたお菓子のこたるも んてろん、おもちやんごたるもんが出とった。食べもんな昆布てん、豆生姜糖どんじゃっつ ろ。あたしゃ豆生姜糖ば好いとったけん買よったばってん、お祖父っつあんの「あげなとこ に出とっとは、汚なかけん買うちゃ出けん」ち云よんなさった。

  国分ん"引っ張りよど"ち云うて昔や「お寄んなさい」ち云うて、参った者ンの袖ば千切る るごつ引っ張って宿さん連れて行って、饅頭てんお茶ばお接待に出しよったげなばってん、 あたしどんが時や"押しやりよど"ち云よったたい。お接待の多かとせからしかけんでくさい。

  そりばってん国分の"引っ張りよど"ちゃ近在で評判しとったげな。今日は国分の"引っ張りよ ど"じゃけん、いっちょ参って来うか、ち云よったげな。八枝のお観音さんな今のうちの屋敷 の西南の隅にお堂のあったげなが、あたしが知らんころ、釈迦堂さん預けてあった。お堂も 失うなっとった。いまはまた薬師さんに帰ってござるげな。そこの薬師さんな薬師さんのお 堂ちうとこで建て直ったごたった。出けた時の"わたまし"に芝居どんがあったたい。


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