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    くち喧嘩
   
  寄宿舎じゃよう佐賀から来とる人達と、筑後のもんとが喧嘩ばっかりしょったこたるふう で、よさり喧嘩すると寄宿じゃ佐賀ん方が筑後より人数の多かもんじゃけん筑後の方が云い 負かさるったい。

そっで翌朝、学校さん持ち込うで「よんべはこうじゃった」ち久留米んもんにどつくっと、 まーだ肥前てん筑後てん、初手の気風の残っとるもんじゃけん、事の理くつよりも、「八ッ チ坊主もところひいき」ち云うごたるふうで、久留米ん者が筑後の寄宿舎ん者に加勢して、 ワイワイ云うて、口喧嘩ばっかりたい。

口げんかの云いごつが古くさかこつでの「佐賀は三十六万石、久留米は、二十一万石じゃけん、 佐賀の方か大藩」ち佐賀ん者が威張っと、「そげな大藩でん女学校ひとつ無かじゃんの、そ げん久留米が不可(いか)んなら、なし学校に来るの」ち云い返すし、「久留米ん者なすら ごつ云う、有ってん『ナーイ』ち云うじゃなかか」ち云うし、わやわやがやがやで、時々ゃ もの云わんてん何てん、しかとうんなかこつで喧嘩しよった。

そげん喧嘩したっちゃ、後でそりほどのしこりもなかふうじゃった。あたしだんあんまりけ んかにかたらんで、高見の見物どんしとった。
竹ん皮草履ばパターンパタンいわせて来 よった人も、よう喧嘩しよった。

誰かどうか云うたらしうして、「そぎゃんこつ云うなら先生に聞こえ上ぐる」ち佐賀弁で云 うたもんじゃけん、久留米ん者がすかさず、「ほーう、聞こえ上ぐるげな、聞こえあーげた る言の葉を、せきとめられて湊川、水無瀬の水屑と消えませど……」ち大楠公の歌どん歌う てたてがうもん。


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