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    牛肉 魚
   
  お祖父っつぁんの年寄りなさってからは、牛肉どん買うて、おもとがよう煮よった。 おもとは牛肉はいっちょん好かんとじゃん、鼻つまむごつして煮よったたい。その煮かた がおかしかもん、長うことこと弱火で煮て、泡の浮いたつばすくい揚げすくい揚げして仕舞 にお砂糖とお醤油で煮込むとたい。のちにお父っつぁんの、よそじゃちょいと煮るばいち云 いなさるけん、いまのすきやきんごつして、食ぶるごつなったばってん、お祖父っつぁんの 頃までは、そげんことこと煮じゃったたい。誰でんな牛肉げなち云うて、なかなか食びうで ちゃせじやったたい。

おもとも、そげんして煮るばってん、こりゃしまえまで牛肉は食べじやったたい。いつか騙 して鯨ん肉ち云うて、牛肉ば食べさせたこつんあったたい。そげなわるさするとは、小まか ときの恒とアヤの仕事たい。
あとから「わーい、ばばやいが牛肉食べた」ち云うて面白 がるもんじゃけん、「そうでございましつろのー妙なふうち思よりましたもん」ち云よった が、鯨ん肉ち云や誰でん食ぶるとに、牛肉ち云や、みんないやがりょった。
ずーっと初 手は、家の中で煮るとさえいやがりょったげなもん。家族同様の牛馬ば食ぶるてん、考えら れんこつじゃっつろの。

  朔日(ついたち)、十五日には、必ず上も次も塩魚か干魚かば大きう切ったつば、お膳に据 えよったたい。昔ゃお正月にゃ塩鯛、塩ぶり、塩鮭んごたっと、お盆には干ぶく(ふぐ)、干 鱈ば親類うち、付合、出入ちゅうごたるとこと、やったり取ったりしよったけん、いつでん ごーほなしこもろて、桶に入れたり、かめに入れたりして、時々悪うならんごつ手入れして、 取っておきよったたい。

  おっ母さんな、何でんほんに鼻ききじゃった。何でんちょいと匂いばききよんなさった。 お正月に、誰か織屋の方に何か持って来たげな、そりばおっ母さんのとこに女が持って来た げな、そりばおっ母さんのちょいと匂いばききなさったげな、塩物のお魚じゃったげなたい,そし てひょいと気のつきなさったげなりゃ、おっ母さんの居んなさるお茶の間の真向うになっと る織屋の真正面に、その塩魚ば持って来た者が座って、こっちば見よるげなもん、ほんに気 の毒かったち云よんなさった。

  そげな塩物な、辛ろなかと悪るなるけん、塩辛ァらかった。そっで前ん晩から塩出しして 使よったか、そりが大方一年間の朔日、十五日に使うしこありょったたい。   時々は川魚てん、一塩物(ひとしおもん)の海魚売りてん来よったけん、時には買よんなさ った。海の生魚てんなかねて買おち云うたっちゃ、買えじゃった。容易なこつじゃ手に入ら んもん。よっぱどどうかした時でなしにゃ。うちゃお仏さんのご命目にゃ、大体お精進じゃ った。そっでお魚売りの来たっちゃお精進日にゃことわりよったもんじゃけん、もう売り屋 の方で心得て、始め荷のめごば表のにわ(土間)に置いて、お台所の内にわ(うち土間)さん入 って来て、「今日はお精進どんじゃございまっせんじゃろか」ち、お伺たてよった。丁寧なふ うな魚売りじゃったもん。そりから櫛原ん一丁目から来よったつは、どうでん、こうでん、 ち云うて強引に売ろでちするもん。

鮎てん、鮎のうるかてん、鴨も持って来よった。火事ん焼けてこっちさん来てからまで売りに 来よったたい。「内藤さんに買いなさいましたけん、おうちにも取っておすけられ」ち云うも ん。
「内藤さんに買いなさったっちゃお前、うちにゃいらんもんじゃけん」ち断はると、 「失敗(しも)うた、当てた褌ゃ向うから外るる」ち頭どん掻きよった。篠山の山本にも行きよっ たげな。

山本にゃ「岸さんに上げて来ました」ち云うし、岸さんにゃ「山本さんに上げて来ました」ち 云うげなもん。よか相手ち思うとこん名ば挙げて買はしぅでちするもん。笑よったこつじゃった。

  あたしが小学校のころ、道海島から来とんなさった中島先生の、西村に下宿しとんなさっ たけん、よー生徒どんが遊び行きよった。何時か、いとしゃんどんと何人かで遊び行って、 あすこんにきん川で手拭でこー掬うて、ハヤてんカマツカ、ドンク、サザレ、ホーゾ貝んご たるとば大分取ったもん、其頃迄は手拭でどん、こう掬うたっちゃ、そげんお魚の取れよっ た。

そっでそりば先生ん方で煮てみんなで食べてしもて、お精進日じゃったっ思い出して、お精 進日にお魚取って食べたち云うてあたしがワンワン泣き出した。どうしてじゃり悲しぅなっ たもんじゃけん、そりから先生ん「よかよかお精進な朝だけしときゃ、そげん一日中せんで よか、悪気でお精進破ったつじゃなかけん」ち云うてきかせなさったけん、泣き止(よ)うだたい。


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