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    ※ おマサばばさん、おタカの母
   
  おまさばばち、山本んお出入面白かばばのおらったたい。話し好きで、道で逢うたっちゃ ほーんに話の長かもん、うちのばばさんでん、おっ母さんでん、向うからおマサの来よらっ との見ゆっと「ホーラ、あすこからおマサん来よらる、早よ道曲って行こ」ち云うて外の道 さんおいよった。そりゃあーた、いっちょ、おマサの話し掛けらったなら、きりなしじゃけ ん、おっ母さん方の、おいりょるとこに、時間ののうなって、おいられんごつなるじゃなか の。

そげん長話しせらっとじゃん。子供んあたしが学校から帰り逢うたっちゃ、長話せらるもん、 「おろーおけー(帰)りよりますのー今、文がけーって来とりますたい。そっで早よ白砂糖箱 なっとん持って、上れち云よりますばってん……」ち話し出さって、道ん真ん中ででん、い つまっちゃなかもん。もとは都合よう店どんしよらったが、営所ん出けたころ、あんまり商 売ば拡げすぎらって、失敗して失うなして仕舞わったたい。

  のちにゃ通町ん八丁目ん北側ん石塔屋の狭まか裏ん方におらったもん。みぞ板どんちよい とふまえて行くと、石塔屋の石てん石塔てんのごろごろ置いてあって、お寺のお墓どこがす ぐそばで続ついとったたい垣も無し。

  そりばってん失敗せらったけんち、いっちょん悔やまる風でんなし、「友達どんが話し来ら りますもんのー、そっでそこは端近、まずまずあれへーち云いますたい。そりばってん、あ れへーち云うて通りよりますとあなた、裏ん石てんお寺んお石塔ん上坐らにゃなりまっせん もんのー」ち云うて笑よらった。

  山本ん親類、うちにゃ、出入のごつよう行きよらった。うち辺にも、岡野辺にも来よらっ たが、いつか岡野に団子どん作ってお重に入れて持って行かったげな。その口上がいつでん のごつ面白かげなもん。身振り手振り入れて「裏んお寺んお墓所から、チョーイと、蓬摘ん で来て団子どん作りましたけん、持って上りました」ち、おぴん裏のお墓所まで云わんでよ かろうにち、笑うてお話しんありょった。裏のお寺ちゃ宗安寺じゃったたい。

  おタカの母は、中々しっかりしたつつましか女じゃった風で、よーおタカの話しよらった が、「仕事ち云うもんな、ガサガサッちするもんじゃなか。絶えまのう、こって牛(おうし)の 尾ば振るごつせにゃん」てん、「刺綿は、いきなりするもんじゃなか、着物の綿でん布団の綿 んごたるもんでん、切れとっとこのぐるりにゃ、かならず綿ん寄っとるけんそりばよーと指 の爪先で伸ばして、どうでん綿ん足らんしこば刺綿すりゃよか、刺綿は爪先ではじき出すも ん」ち。

  初手は綿はめんめんが種植えて育てゝ実ば摘んで大事して作りょったけん、その大切なこ つの骨身にしみとっつろし、今んごつ世の中に物ん豊かにあるわけじゃなし、みんなが物ば 大事しよったたい。


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