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    尺 八
   
  義人さんのおっつあんが、目のわるかったらしうして、三味線てん、笛てんば、けいこし てほんに上手じゃったげな。いつかうちに来て、"笹の露"ち云うて、尺八に金銘の入ったつ のあって、下手が吹いたっちゃ、いっちょん鳴らんとば、義人さんのおっつあんが、よう吹 きょったげな。

ちょうどそん時、表に虚無僧さんが来合はせて、「どういう訳で尺八吹いとるか、誰の許し うけとっとか」てん云うげなもん、そりからその吹きょった者が出て来て、「今んとは尺八 じゃなか、一節切(ひとよぎり)じゃった」ち云うたげなりゃ、虚無僧さんな、だまって引上 げて行ったげな。明治の初め頃までは、尺八ちゃ誰いらん吹くこつは出けじゃったげなたい。
ばってん一節切ちいうとは誰でん吹いてよかったらしか。尺八ち云うてん、一節切ち云うて ん、実物は同じもんじゃったばってんの。


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