SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
|
||
ご大倹のこと | ||
うちにゃくさい、紋付の木綿物の何枚でんありょったたい。男物でん、女物のちらしつき てん、振り袖てん、ありゃご大倹のときそげん絹物禁じられたけん、あたで木綿で作ったっ じゃったげなたい。のちにゃ盗み嫁ごさんの着物にどんよー貸しょったたい。 ご大倹のお布令の出て初めてのお正月に、岩本じゃご殿に上んなさっとに、なんの気なし、 絹の裃ば着せて上げなさったげなもんじゃけん、忽ちお咎めうけて、閉門じゃったげな。絹 もんのあるけん、こげなこつのでくるけんち、久留米じゃ絹物の売買もなかごつなっとるけ んち博多から商人呼うで、絹もんな何でん彼でん風呂敷至るまで売り払いなさったげな。岩 本から岡野においっとったあたしのばばさんな、その頃まぁだ子供じやっつろが、ほんに好 いとんなさる風呂敷のあったげなたい。その風呂敷まで売り払いなさるもんじゃけん、ほん に惜しか気持んして見よんなさったげな。 ご大倹で絹物着ちゃ出けんごつなって、下々(しもじも)ぢゃ下着の襟、袖口何にでん一切 使うちゃ出けじゃったが、金持てんなんてんな下着絹物着たりしょったげな。そっで、お目 付の下の、目明してろ岡っ引てろ云うごたる者どんが、なかなか意地悪う探し立てて、どう のこうの云うたり、したりしよったげなたい。今田あたりから芝居てんなんてん人出のあっ とこに出ておいっと、後つけて来て着物にさわったりするげなもん、ひどかつは便所にまで つけて来よったげな。下着絹着とっと上は木綿着とってん、ちょいと手で撫づるとすらっと するげなけん、うらめしいこつじゃっつろの。 ばってんご大倹な、金持がケチンボするとにゃよか口実じゃっつろたい。その始末ぶりゃ、 五年の期限のすぎってんのちのちまでも長う引いたらしか。うちん家ば建直した時がご大倹 後らしうして、建ち上ったとき、お祝い作って大工にやる矢ば、どこでん板で大っか弓矢ば 作るとばってん曾(ひい)ばばさんの杉皮で作らせなさったげな。倹約倹約で。そげんしたけ んそっで火事ん焼けたつかん知れんち、年寄ったぢいやいの居ったっが火事のあとで云よっ た。 |