SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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ご降嫁のお姫様 | ||
一番しまえの殿様にゃ、お子様の何人でんおんなさったこたる。頼姫様のほかにたしか千 代姫様ち申上げたお方の、ご家老さんの有馬さんにおいっとった。いつか殿様の不意にそこ においでになったりゃ、千代姫様の、赤ちゃんお抱きなったなり、カネ(鉄漿)どんおつけな りよったげな。そりご覧なって、そげなこつお姫様にさするちゃ、怪しからんちうこつで、 一辺な、千代姫様ばお取り上げになったこつもあったげな。そのお子様が、お初様で、秀雄 さんち仰しゃるお方ば、田代からご養婿なさっとったたい。のちの代議士の有馬秀雄さんた い。 直姫様は、ご一族の重臣有馬においっとった。あたしが小ーまか頃じゃっつろ、お城内(お しろうち篠山町―城南町)のいまの篠山小学校の西北のにきお住いなっとった。そこん隣千磐 の伯母さんのおんなさったけん、いつでん、いろいろ千磐の伯母さんにご家のこつどんお話 のありょったげな、お子様方はよう千磐にお遊びおいりょった。あすこにも子供ん三人あっ たもんじゃけん…。 いつかお祭千磐に行っとったりゃ、そのお子様達の、近所ん子供たちと遊びおいっとったが、 並べてあるお祭のお膳んどん見渡しよんなさったが、ちょーいと蒲鉾ばつもうで、上ったけん、 そげんお行儀の悪るかこつなさっちゃいかんち伯母さんの仰しゃりょった。どうして、子供 は子供、お姫様のお子様でんどこの子供でん変りゃなかのち、伯母さんとおっ母さんと笑う て話しよんなさったっば覚えとる。 ご一新後はやっぱ有馬もだんだん小もうなして行きなさらにゃんごつなったもんじゃけん、 お女中ん数も、減らしなさらにゃんち云うこつで、何人位しなさらにゃなりますめちお直様 に申し上げてん、子供の守何人、自分付何人ち、仰しゃりょっと十人位すぐなるげなもん、 そげなふうで、生活てん財政てんの立て直しが、やっぱなかなか出けなさらんごたったち、 伯母さんの仰しゃりょった。 こりゃ田村のおかねしゃん(山本常寛末女)のお話しばってん、その後お直様は、いよいよ 貧乏暮し成んなさった頃は、庄島さんおいっとったげな。そして山本に居った女が上って、 いろいろお世話しょったげな、そすと、いよいよお手元の無うなっと、山本に行ってお金を 持って来るごっち仰しゃるげなもん、その女も、これにゃ困りょったらしかたい。昔なりで、 申し付くりゃ、ハハーッ、ち云うて差し上ぐるもんのごたるお気持らしかったげな。 山本のおのぶばばさんなそりばってんようして上げよんなさったふうで、山本にお直様のお いると、昔ながらのしきたりでお出むかいてん、お見送りのありょったげな。男、女、出入 りの者達みんな、土下座して平伏させなさるげな。そすとお直様は、「山本に行くと、気の すーっとして晴れ晴れとする」ち仰しゃりょったげな。時代遅れでおかしかごたるこつばっ てん、お直様にゃ何よりのお慰めじゃっつろたい。 お直様がご病気で、もう今だ(今度は)、むつかしうあんなさろちうごつおひどか時、後々 のこつばお兄様(頼萬公)にお願い申上げにゃんち、仰しゃるげな。そげんおひどかつに、ご 無理なさっちゃ、ちお止めしたっちゃ、こちらがお願い申上ぐるのだからち仰しゃってご重 態押して、きちんとお身だしなみどんがあって、威儀正して頼萬様に、後々のこつのお頼み があったげな。頼萬様にお直き直きか、お使ひのお方にか其辺なききもらしとるばってん。 そげなこつは、どうしてなかなか折目正しかち云うか、きちんとしたこつじゃったげな。普 通の者な、そげんひどかなら親じゃろと、兄じゃろと、枕元に呼うで寝たなりどん頼むこつ ばってんの。 |