SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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雪折れ | ||
お祖父っつあんの、奥のお露地に自分で生えた樫ば、真直ぐなるごつ育てよんなさった。下枝 は下ろし、下ろしして、もう大分こーして見上げにゃんごつ太う育って行きょったりゃ、何時か の大雪で途中から折しょれた。家ば建て代ゆっときの棟木になるこつち云うて、育てよんなさっ たつばってん、折れてしもうて……。 初手はみんな自分の死んだ後々の事にでん役に立っごっち、一生懸命木でん植よったがのー。 そん時ぁ、お父っつあんもどこかにお入って夜もお留守じゃった。どんどん雪の隆るもん、わり わりわりざーっちうて、大っか木の枝ん折れて雪の落つる音んしたり、藪ん竹も、こーう、しの うて、ポクーン、ポクンち折るる音んしたり、表ん道ゃ竹てん木の枝てんのしのうて通られんご つなって、誰りん通らんで、あん時ゃほんに寂しかった。 その頃は、あたしゃ文学少女じゃったけん、ほんに静御前が吉野山で義経に雪の中で別かれた時ゃ、 こげん積もった中でじゃっつろがどげんあっつろにちどん思たりしたたい。 木も藪も失うなったし、人も多なったけんじゃろか、あげな、大雪ち云うごたる大雪ゃもうなかろたい。 |