SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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晩 酌 | ||
うちや、お祖父っつぁんとばばさんとで小まか一合這入らん位のお燗徳利一本、お父っつぁん が一本、夜さんの、ご飯のとき上がりょった。ばばさんなほんにお酒てん焼酎てん好いとんなさっ たばってん、ほんなお盃二、三杯でよかつじゃん、余計にゃ上がらんもん。あたしが高等小学校 行きょった時、町で茄子の形したほんによか五勺あまりしか入らん徳利ば見つけたけん、買うて 来て上げたりゃ、ほんに喜ろこうでそりでばっかり上がりょった。 おっ母さんもお父っつぁんのお相伴で、一杯ぐらゃ上がりよったばってん、出けん方じゃった。 夜さんのお膳に夫々、お盃んついとるけん、あたしゃこまか時からお酒はむつかしかったばって ん、お盃だけはお膳に載せときょった。載っとらんと、「チャンのオサヅキ(盃)んなか」ち片 言で腹かきょったたい。 次の間の者も仕事んきつか時ゃお燗つけてやれち仰しゃりょったけん、年中んごつ、つきよった たい。お爛徳利の二合半位入るとに、一本てん何本てん、そん時の模様でお爛のつきょったけん、 男達の飲みよったたい。 うちゃ何時でん晩ご飯のほんに遅かった。食べてしもう時ゃ、九時どんじゃった。男達の仕事 して、後片付けどんしよると、御飯たぶっとが、どうしてん八時過ぎって九時頃にどん夏時分な なりょったたい。日の長かもんじゃけん。そっでん、お祖父っつあんの、働きょる者より先、う ちん者が食べちゃならんち、次の者のごはんたぶるごつ坐らにゃ、食べやおらじゃったけん、子 供は眠かったり、ひもじかったりするもんじゃけん、東京さん宿がえしゅうかちあたしゃよう云よった。 「何故(なし)ろ」ち仰しゃるけん「夕ごほんの早よ食べらるゝけん」ち云よったけん笑はれよっ たたい。「九時食うならよかじゃなかろ」ちお祖父っつあんの仰しゃりょったけん、あたしゃ子 供ん時から、夜ふかしの名人たい。そげんして遅うごはんの済むと、其頃はどこでん夜の遅かっ たごたるふうで、出入りのばばやいてん、ぢいやいてんが、あっちこっちから集って来て、色々 世間話てん新聞読みてん、本読みどんが始まりょった。 |