SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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胎教ききすぎ | ||
あたしん生るっときゃ、胎教で秀吉んごつ偉かつん生るるごつち云うて、お父っつぁんの、 厚つか上下二巻になっとる太閤記ば買うて来て、毎晩おっ母さんに読うで聞かせよんなさった げなたい。そっでばしあっつろたい、生れた時のあたしん顔はお猿んごたったげな。そして大 きうなってん、こげんしとるけん、よっぽど胎教んききめんあったっじゃろたい。出世するど ころか、胎教のききすぎって、つん抜けてしもて、どん底まで落ち込うだたい。 子供んとき、おばやいが、どこかにあたしば負んぶして連れて行ったげな。そして鼻ん低っ かち云うて悔ようだげなりゃ、そこん親爺さんが「なーんの、あすこ辺の子供さんな、今見苦 るしかったっちゃ、いんま良うなんなさる」ち云うたげなばってん、いっちょん低か鼻ん高う はならじゃった。 あたしが生れた二月十二日は旧のお正月とひっついとったげなけん、ご年始てん生れたお祝 てんで、人の朝から晩まで出たり入ったりじゃったげな。お正月のもん、お祝のもんひとつひ とつ取次いだり、もの云うたり、そのたびに次の間と、上のお茶の間との間の腰高障子ば明け たり閉めたりしよったけん、もう大分磨りへっちゃおったつじやろが、その障子のパターパタ、 倒るゝごつなったげなもん。そっで障子の上にまた木ば打っつけてありよった。 |