SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
|
||
おもとのお守 | ||
おもとは、上妻の相当なうちの一族で、笠九郎兵衛さんの直系の家の二男の嫁さんに来たつ じゃったたい。むこどんがお酒呑みで、苦労した上早死してしもて、本家は下の弟がついどっ た。あたしが生るゝ時乳母ばさがしょったりゃ、そげんして後家さんで居るち云うこつで、う ばに相談しうか何せ、里方が里方のけん、承知してくるゝじゃろかち云いながら、相談したげ なりゃ、よかどこじゃなかち、承知してくれたげな。 人柄の、何となし鷹揚で、いやしさのなかった。あたしん為にゃほんによかったろの。そっで、 あたしと乳兄妹になる新ちゃんも、ほんに人物じゃったたい。後あたしが苦労するもんじゃけ ん、八十ばかりで死ぬ迄、いろいろ心配してくれよったたい。今おってくれたなら喜うでくれ つろにち思うたい。 どうしてあげな傘の有りょったじゃり、大っか、こうもり傘んあったもん白か布で張ってあっ た。そりばおもとがさして、あたしば負うて、ブーラン、ブーランして行くもん。おもとは人 並みの体格じゃったばってん若か時ゃ、こーう横さん肥えとったげな。そっで皆が、「ほーら、 あすこからオミコシさんの来よーらすばい」ち云うて見よったち、男達のあとから云よったたい。 あたしゃ、おもとに負はれてよう知り合いんうちにどん、あっちこっち、遊うでさるきよっ た。茂平次ん方にもよう行きょった。負われながら、あたしがこーう手ば差し出して、唐芋の 尻ば摘もうでぶら下げて行くもん、そりが、どうかち云うと、たった一っじやん、行くとすぐ クドん燃えよっとん下に突込んどくもん、もとはどこでん農家は火ばようクドで燃やしょった。 作殼てん、柴ん葉てん、松葉てんで、大方は婆さんどんが仕事に燃やしょった。いろいろ炊 きょったじゃろ、馬んはみ(食)てん何てんどんも。そすと、いとしゃんも自分方の唐芋ば持っ て来て、一しょに、自分のつてん、姉妹のつてんば、突っ込んで焼くもん。そして、近所ん子 供どんも、男ん子も女ん子も遊び来て一緒にドスンドスン家のなかで走り廻ったりして遊びょっ たが、よう応変隊の真似ばしよった。「チーヨイヨイ、チーヨイ、ドンドコドン、ドンドコド ンのドンドコドン」ち云うて、みんなでグルグル廻って部屋んなかでん、お縁側でん、ドタバ タ云わせて大騒ぎしよった。 茂平次ん方はあたしどんが知らん頃、大風で倒れたげなけん、いっ時うちさんみーんな来とっ たたい、そしてうちから家ば建ててやんなさったつげな、茂平次のそげんあたし話したこっの あった。まあだ学校に行きよらん頃たい。いとしゃんとはそっで子供の頃からずーっと一緒に 遊びよった。 年ゃ、いとしゃんが一っか二っか上じゃった位じゃけん。茂平次方ん裏は深か藪になって、そ の藪ぎわに大ーっか銀杏の木のあって、ほんに美しう黄のうなりょった。 |