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    天神さん参り
   
  つっちやんがまあだおった頃、北野の天神さんに参ったこつのあった。ばばさんとおっ母さ んと伯母さんと、あたしとつっちゃんと、おもとと外に女が二、三人に、男が二人で大人数じゃった。

  参るとに羽織ば作っていただいた。大きうなったけん、もう着らるっとのなかち云うて。縮 緬で鼠色地に、二、三寸角に末広形てん白地ば抜いてあるとに、籬(まがき)に菊の模様ば色 で描いてあるとじゃった。 何せ多人数じゃけんご車にゃ乗る訳にもいかんけんち、ばばさん でん誰でん歩きなさった。昔ん人は年寄りでん、二、三里どん行くとは、ねーごつんなかこつ じゃったたい。

あたしと、つっちゃんなまあだ小まかけん、おぢやいがめご荷のうて、それに片方に一人づつ 乗ったたい。神代の渡し、その頃は橋もなかったもん。帰りにゃ、行きがけに舟のゆれたけん、 えすかち云うて、どんどんつっちゃんが泣いて、舟に乗らんち云うて、ぐぜって大ごつじゃった。

ようよう騙しすかしして乗せたばってん、こっち岸に着いたりゃ、こんだ、めごに乗らんち云 うて、ぐぜって誰か女に負われたけん、めごの片方に川原の石ば入れて、あたしが、一人で荷 なわれて来よったところが、男が荷のうとるなり道端でおしっこし始めた。

そんとき、あたしゃ退屈しとったけん、めごの中で首ばこう後さんそねくったけん、めごのス ルスルーち、棒ばすべって、おしっこしよる溝さん落ちうでちしたけん、おぢやいからおごら れた。「そげなこつしなさんなら、どんこんならん、溝ん中に落て込みどんしなさったなら、 どうしなさんの、じっとしときなさらにや」ち云うて…。

  その時くさい、茶屋で伯母さんの柿ば買うて上がったもん、そりから、つっちやんが家さん 帰って、目ばまん丸うして、「伯母さんの柿ば生ごれ(ごと)上ったばい」ち、留守しとった 女達に話しょるもん。小まか子供にゃ干柿しか食べさせらりょらじゃったけん生で食ぶっとの 珍しかったつじゃろ。


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