SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語


    ご披露
   
  花聟さんが役所の休みが二、三日しか取れんけん、あとは役所から帰って来て夜披露しょった。 お父っつぁんな後継の来たつじゃけん、誰とでんようと顔見知りしとかんと出けんけんち、うちぁ がたがたになりょっとにくさい、しっかり披露の人数ば多うしなさったもんじゃけん、七晩もご 披露の続いて大ごつじゃったたい。

  お料理は翠香園の主人とお父っつぁんなよう知っとんなさりょったけん、初手から何でん頼みよっ たが、こんだも全部翠香園まかせじゃったたい。失うなりょる失うなりょるで、結構使うもんじゃけんの。

  礼式のばばさんちゃ庄島に年寄った人の居んなさって、山本あたりも礼式のこつについて出入りしょ んなさったけん、山本からの紹介でうちにも来て頂いたったい。

  ご祝儀もくさい、おみきしゃんの祐しゃんにおいった時まぢゃ、苧扱川の三丁目から篠山の三丁目 までおかごでおいったたい。後は人力車にてんみんな乗って行きょったが。うちの花婿さんな、か し切りの乗合い馬車じゃった。

  うちのお父っつぁんの名は栄、養婿の名も栄じゃけん、養婿の方の名ば変えじゃこてち云うこつに なって、あれこれ云よんなさったが、泰ち云う字がうちの昔からの通り字じゃけん、泰ば栄に冠せ て、泰栄(ヤスヒデ)がよかろち云うて、そげん戸籍面ば変えなさったたい。のーち、泰栄ちゃい かん字ち、考え人の云うたてろで通称ば、自分な禎文(さだふみ)、恒ゃ禎夫ち変えとんなさった けん、恒ゃうちんもんが禎夫ち云うけん、人も云うたりしよったが、お父っちゃまは他人なみんな 泰栄さんてん、タイエーさんてんち云うていっちょん禎文てん何てんちゃ云や居らじゃったたい。


前のお話へ  戻る      次へ  次のお話へ