SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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営所の楠 | ||
そげなふうでお父っちゃまは、えすか者の居らんごつなんなさったもんじゃけん、だんだん役 所づとめもよか加減になって、師団長が十時にしか出らんとに、なんの十時前から出るもんか ち云うて、だんだん向う意気ばっかり強よなって来よんなさった。 その頃まで四十八の土坡(どは)はなしに木柵じゃったたい。そっで土坡作るち云うこつになっ て、お父っつぁんの営所の出来るとき、いんま営所の森ち云うて、どこからでん見ゆるごっち、 寄附して木柵に沿うて官所のぐるりに、ずうっと植え込みなさった楠の苗木六百本が、大分大 きうなって、丈の、二、三、間にだんなっとったつば、取りのきう、ち云うこつになったげな けん、お父っちゃまの、ありゃ、義父がそげん云うて植えたつじゃけん、切らんで貰いたか、 ち係の人に云いなさったげな。 そんなら切り除けんで、そのまま土披の中に残しとこち云うこつになって残ったたい。ばって ん、あんまり大きぅなかつに幹ば土に埋められたけんじゃろ、枯れたつも大分あったばってん、 ずうっと営所のぐるりに終戦まで残っとったたい。 終戦後一時西北ん方が中学校になったりした時あの辺な切られたりして、大分失うなったばっ てん、表ん方んとは、もうほーんに大木に成ってしもたたい。また今だんそうに大きぅなっと るげな。楠ちゃ早よ太るもんのー七十年余リでくさい。 そりゃ良かこつば仕残しとんなさったたい。いまでん残っとるもんじゃけん。 そしてお父っちゃまはそげなふうに、ぐらぐら勤めしよんなさったが、とうとう役所はやめて しまいなさった。人に使わりゅごつはなかげなたい。そして何じゃり大っかこつばっかり云い 始めて、お酒呑みてん、網打てんばっかりはづうで、村ん学務委員じゃんに顔出し始めなさったたい。 |