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    火事の因縁
   
  うちの家は、そりばってん、どうしてん焼けにゃ承知のいかん家じゃったじゃろの。うちゃ昔 からそーに火の用心てん戸締りのやかましうして、家の主婦が毎晩、降ってん吹いてん、家の 内外ば見て廻ってからしか寝みゃ居らじゃった。いつかだん、ばばしゃまの若か頃、火の見廻 りしょんなさったげな、そりから表の馬屋のにきに、フワーフワ白ーかもんの動くげなもん。

不思議なこっち、こーうお手燭ば突き出してだんだん近寄って見なさったげなりゃ、馬屋から 馬のこー首突き出して、顔ば動かしょったっじゃったげな。その馬は鼻面が長う白かったげな たい。そげな話して笑よんなさったが、家の内てん、ぐるりてん見て廻るとも大事じゃったばい。

  昔ゃうちの米倉は、藪の方にあったばってん、後、下ん段に別に建ててあったつげな。
  下ん段の米倉の場所は初手は源ちゃん方の藁葺屋根の家のうちにひっついてあって、藁ののき 先がうちの石垣にひっついたごっしとったげな。そして何辺でん源ちゃん方が火事起こそでち したりするけん、危なかけんち、土地ば交換して家建て直して源チャン方が移転したつけなが、 そげん危なかったとこより、危ながった方が焼くるもんじゃけん皮肉なもんたい。

  一ぺんな女が大安売りで布ば買うて来たけん、そりはやすみがけになって、他の女達に見しゅ でち、ランプば自分達の荷物入れの四畳さん持ち込うで、長持の上に載せて、どうかしよって、 ランプは壁と長持ん間さん落したげなもんじゃけん、どんどん燃ゆるげなもん。女達ゃとちれ てしもて、塵打ちどんパターパタ云わせて、火事ぞい、ちボソーボソー云よるげなもん。

ちょうど長崎から安兵衛の来とったけん、安兵衛が気の付いて、ちよーいと布団引被せて、押 しもうだけん、直ぐ火は消えたげなたい。安兵衛の来とらじゃったなら、そん時焼けとっつろ たい。のち、その女が、ほんに焼けて仕舞だなら、竹ん皮拾い行く藪ん中に井戸んあったけん、 あすけ、身投げしゅうちどん思いながら、塵打ちでパターパタ云わせよりましたち云うけんほ んに笑うたこつじっゃた。

  そりからお祖父っつあんのご葬式の時も、何日でん大釜で続け立てゝどんど炊きするし、暑か 時じゃあるし、くどと大壁との間がそげん離れちゃおらじゃったけん、大壁の中の木てん竹に 火気のこもって火の起っとっとの分かったけん、大ごつして消したこつんあったたい。

  そりから電燈になって、一安心したりそゃの電燈から焼け出すもんじゃけん、それに何もかん も、都合悪うポンプの直ぐ来られん時に焼け出すもんじゃけん、どうしてん焼けにや収まらじゃったっじゃろたい。


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