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    火の車
   
  火事は焼けた。銅山の方は失敗した上第一次大戦の済んで銅はパッタリで、そりからが、うちゃ いよいよ火の車になったたい。

  上ん段の倉ん中ん物も、だんだん売り食いで失うなるし、火事の後倉も解いて売るし、下ん段の 倉にも入るゝ物も無かごつなって、こっちも解いて売り払うて、上ん段の倉に入っとった昔の物 の、僅か残っとっとば作小屋続きの物置に入れとる丈けになってしもたたい。

  お父っちゃまは、大正始めにゃ、久留米織物会社ち出来たっの監査役てろ何てろしとんなさった が、こりゃいつの間にか早よやめとんなさったふうで、銅山の仕事もせんごっなってから、人が 勤めなさいち云うたっちゃ、月給んちっとどん取ってどうしうかで、ぶらぶらして、何じゃり鉱 山ブローカーてん、山師んごたっとどんとばっかりつき合よんなさった。

まあだでん大っかこつで、一ぺんに盛り返えそうち云う気のあったごたるふうじゃん。善真館も 解いて売り払うた。土地は低当に入れてお金借って段々食い潰しになるばかりじゃったたい。男 女も、もう清夫婦が居るだけになったたい。村ん者の信用も落るばっかりで、うち来なさって、 旦那さん振って威張るこつ丈け威張んなさるばってん、一向旦那んさんらしうしなさらんもんじゃけん。

ばってん急に生活の変って、そこの呼吸のわからしゃった風で気の毒でもあったもんの。火事の 後で、お世話かけた辺り当主がお礼廻りばするとに、村内にゃ、「何の旦那んの俺が廻ろか、お 前達が廻らさい」ち云うて、茂平次と清ば廻らせなさるもんじゃけん、二人ながらほろほろ悔う で廻ったたい。

出入ん者も、村内の者も、初手ん、旦那ん様ならこげなこつじゃなかっつろにち云よったたい。 そげなこつで、段々財産ばかりじゃなし人望もなかごつなって行ったったい。


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