図1. 矢部村の現存植生図 |
矢部村の総面積は八、一七四ヘクタール、そのうち約八七パーセントが山林で占められている。
山林地域は長い年月にわたる人々の生活の影響で、少しずつ自然の植生が失われていくが、特に明治三十五年頃から村の基幹産業として導入されたスギの植林によって、人為の植生が拡大し、今日では山林の約九〇パーセントがスギの人工林に変化してきている。
矢部村森林組合の林班図をもとに、矢部村の現存植生図(図1)を作成してみると、村の大半がスギの植林によっておおわれていることがわかる。
自然植生は、人間の影響のない自然状態のものであり、厳密な意味では矢部村には自然植生は存在しないが、比較的自然度の高いものを自然植生とし、自然植生が破壊され、異なった植生に変化したものを人為植生、自然植生と人為植生の区別が困難なものを半自然植生とし、矢部村の植生を以下に概説する。
図2.釈迦ヶ岳・御前岳の植物群落 |
ブナは冷温帯林(夏緑樹林)を代表する樹木であり、矢部村における生育域は、海抜九〇〇メートル以上の範囲に分布している。
かつては、三国山(九九三・八メートル)国見山(一〇一八・一メートル)などの尾根筋にもブナ林が存在していたと思われるが、現在では釈迦ケ岳(一二三〇・八メートル)、御前岳(一二〇九メートル)の尾根筋にのみ、かろうじて残存している。(図2)
ブナ林内のスズタケ(写真1) |
日本のブナ林は、ブナの木の下に生えるササの種類によって大きく二つに分類されている。
その一つはチシマザサ・ブナ林で、雪の多い日本海側に発達し、他の一つはスズタケ・ブナ林で太平洋型気候域に分布している。スズタケ・ブナ林はさらにツクバネウツギ・ブナ群落とシラキ・ブナ群落の二つに下位区分されているが、四国・九州地方のブナ林はシラキ・ブナ群落に属し、コハウチワカエデ(写真7)シロモジ(写真4)などの標徴種をともなうのが特徴である。
福岡県におけるブナ林の発達する山を分類してみると、英彦山、犬ケ岳はチシマザサ型のクマイザサが生育し、背振山・雷山では中間型のミヤコザサが生育している。
したがって、ブナ林下にスズタケのみ密生している釈迦・御前岳は、福岡県におけるスズタケ・ブナ林の典型であるといえる。
シラキ(写真2) |
表1は釈迦・御前岳のブナ林を形成する主な植物の組成表とその特徴を示しているが、ブナ林内を散策して目につく主な植物は、ブナ以外の高木層にミズナラ(写真3)、コシアブラ、コハウチワカエデ、アカガシ等がみられる。亜高木層ではマルバアオダモ、ベニドウダン(写真5)・コミネカエデ・シラキ(写真2)等がみられ、秋の紅葉時、登山客の目を楽しませてくれる。
低木層は大人の背丈以上のスズタケが密生することが多いがその中にシロモジ、タンナサワフタギ(写真6)、ウスゲクロモジなどが点在する。
また土壌が浅く岩場の多い部分等にはツクシシャクナゲ(写真8)が生育している。
草本層は少なく、夏の終り頃から登山道沿いに咲くシコクママコナ、ニガナ、アキノキリンソウ、ヒヨドリバナ等であるが個体数は少ない。
釈迦・御前岳のブナ林は、急傾斜地で保水力の低い土地的条件の下に、かろうじて形成されている自然林である。矢部村の誇るべき財産であるのみならず、訪れる人々の大切な心のふるさととして守られるべき森林である。
釈迦・御前岳のブナ林の主要な植物の構成種を調査結果にもとづき表1に示す。
ミズナラ(写真3) |
シロモジ(写真4) |
ベニドウダン(写真5) |
タンナサワフサギ(写真6) |
コハウチワカエデ(写真7) |
ツクシシャクナゲ(写真8) |
ブナーシラキ群集標徴種及び識別種 コハウチワカエデ V+-2 コツクバネウツギ T+-2 シロモジ W1-3 ヤマイヌワラビ T1 シラキ T2 亜群集識別種 マルバアオダモ V+-2 オオカメノキ U+-2 シシガシラ V+-2 シキミ V1 アカガシ T+-2 コガクウツギ T1 ハイノキ T1 ブナースズタケ群団標徴種 ベニドウダン W1-3 タンナサワフタギ V+-2 イヌツゲ V+-2 アオハダ U+-1 アセビ U1-2 ツクシシャクナゲ U1-2 ネジキ U1-2 スズタケ X2-5 カマツカ U1-2 クマシデ T1-2 イヌシデ T1 モミ T1 アカシデ T1 ナツツバキ T2 オオマルバノテンニンソウ T3 |
オーダー標徴種 ブナ X1-5 ミズナラ V1-3 コミネカエデ U1-2 ミヤマシキミ T1-2 リョウブ W+-4 ツタウルシ U+-1 ゴトウズル T1 ツリバナ T1 イワガラミ T+-1 ユキザサ T+-1 ハリギリ T1 ヤマボウシ T1 ウリハダカエデ T1 伴生種 ミヤマシグレ T1-2 オオイトスゲ U1-3 ヤマグルマ T2-3 オトコヨウゾメ T1 ナンキンナナカマド T1 ヤマツツジ T+ マンサク T1 アブラチャン T1 モミジガサ T+ チゴユリ T+ 他の出現種は省略した。 |
西南日本の太平洋型気候域では、ブナ帯の下部にモミ・ツガなどの針葉樹とカシ・シキミ・
ツバキなどの常緑広葉樹が共存する中間温帯林が形成される。
矢部村においても、シイ帯から
ブナ帯に移行する中間温帯域(七〇〇〜九〇〇メートル)には、モミ・ツガおよびアカガシ・ツバキ・
シキミが生育している。しかし、森林として成立する部分は見られず、わずかに伐採をまぬがれたアカガシが尾根筋に点在し、岩の多い部分にモミ・ツガ林が残存している。(写真9・10)
かつては素晴らしい林相を誇っていたと伝えられるアカガシ(写真11)及びモミ・ツガ林も今はその面影すら見られない。
表2は国見山アカガシ林、表3は御前岳モミ・ツガ林の植生調査結果を示すが、純林としてではなく、混成林的要素を示している。
モミ林(写真9) | モミ(写真10) | アカガシ林(写真11) |
高木層 樹高15〜20m植被率45% アカガシ 3.4 エゴノキ 1.1 亜高木層 5〜10m 60% アセビ 3.3 コハウチワカエデ 1.2 シキミ 2.2 イヌツゲ 1.1 コバノミツバツツジ 2.2 アカガシ 1.1 ヒサカキ 1.1 低木層 1〜3m 95% ハイノキ 3.3 ミヤマシキミ 1.1 ヒサカキ 1.1 モミ 1.1 ツガ 1.1 コバノミツバツツジ 1.1 |
アカガシ 1.1 シキミ 1.1 ネジキ 1.1 ノリウツギ 1.1 アカシデ 1.1 ミヤマシグレ 1.1 コハウチワカエデ 1.1 シラキ + ツクバネガシ + 草本層 0〜0.5m 20% ミヤマシキミ 3.2 シキミ 1.1 シシガシラ + イヌツゲ + コハウチワカエデ + ヤマウルシ 1.1 |
高木層 樹高20〜25m植被率 85% モミ 3.3 ツガ 2.3 ヒメコマツ 2.3 亜高木層 8〜15m 30% ソヨゴ 1.1 ヤマグルマ 1.2 コミネカエデ 1.1 アセビ 1.1 マンサク 1.1 低木層 1〜5m 90% ハイノキ 5.5 |
ツクシシャクナゲ 1.2 コミネカエデ 1.1 コガクウツギ 1.1 草本層 0〜1m 15% コハウチワカエデ 1.1 コガクウツギ 1.1 コミネカエデ 1.1 シロモジ + ハイノキ 2.2 イヌツゲ + ヤブツバキ + アカガシ + |
生育困難な岩角地形にはアカマツ林が形成される。
矢部村各地の岩峯の疎林がそれである。
アカマツ林は、元来森林を伐採したり、火入れなどの人間活動が加えられると形成される場合が多い。
矢部村においては、国見山、三国山、日向神ダム地域などの登ることのできないような岩峯域に点在している。
表4は日向神ダム付近の岩峯におけるアカマツ疎林(写真12)の植生調査結果を示している。
2. 岩壁の植生
日向神ダム周辺の岩峯は安山岩の奇岩が連なり、大分県の耶馬渓に勝るとも
劣らない景勝地である。
(写真13) その岩壁の景観は福岡県屈指のものであり、登山愛好家のロック・クライミングの
格好の練習場として利用も多い。
八知山の小日向神の岩壁にイワヒバ群落が多いのに対して、日向神ダム周辺の岩壁には、 イワヒバに加えカタヒバ・ヒトツバなどの群落が見られる。 この岩壁にはチャボツメレンゲ・セキコク・ヒナランなど貴重な植物が生育しているが、特にラン類は心ない人達に持ち去られてしまいヒナランなどほとんどその姿を見ることができない。
高木層 樹高10〜15m 植被率70% アカマツ 4.4 亜高木層 4〜6m 60% リョウブ 2.3 イソノキ 1.1 ヤマウルシ 1.1 アカシデ 1.1 タカノツメ 2.3 ネジキ 3.3 低木層 0.5〜2m 55% コツクバネウツギ 3.3 アセビ 2.3 ネジキ 1.1 タカノツメ 1.1 ヤマツツジ 1.1 ヤマウルシ 1.1 ウリカエデ 1.1 アカマツ 1.1 ソヨゴ 1.1 |
草本層 0〜0.5m 40% ヤマツツジ 3.4 コツクバネウツギ 1.2 ヤブコウジ + ススキ 1.2 アカマツ 1.1 アラカシ 1.1 ワラビ + ヒサカキ + ノキシノブ 1.1 ソヨゴ 1.2 ヒトツバ 1.1 ヤマウルシ 1.1 ヤブツバキ + シシガシラ +2 シノブ + |
アカマツ疎林(写真12) | 日向神岸壁(蹴洞岩)(写真13) |
表5に日向神ダム周辺の岩壁の植物群落の調査結果を示す。
矢部村の平地部分(標高三〇〇〜四〇〇メートル)は、田畑等の利用により本来の自然林は見られないが、
部分的に残存する二次林等の構成種を知ることによって推測することができる。(写真14・15)
表6はシイ・カシ林、表7は崖錘地におけるカシ林の調査結果である。
矢部村における平地部分の自然林は、シイを主体とするタブ・カシの混合林であったと考えることができる。
押吟のシイ・カシ林(写真14) | シイ・カシ林内(写真15) |
高木層 樹高8〜12m 植被率95% シイノキ 3.3 アラカシ 1.1 シラカシ 1.1 ホウノキ 1.1 亜高木層 5〜8m 60% アラカシ 1.2 シラカシ 2.3 シイノキ 2.2 リョウブ + ウリカエデ 1.1 ヒサカキ 1.1 シイモチ 1.1 低木層 1〜2m 30% シラカシ 2.2 ヤブツバキ 1.1 ヒサカキ 2.2 ネズミモチ 1.1 ムラサキシキブ 1.2 シイノキ 2.2 |
シイモチ 1.1 コガクウツギ 1.1 タラヨウ 1.1 ウリカエデ 1.1 ガマズミ + 草本層 0〜1m 5% ムラサキシキブ 1.1 テイカカズラ 2.2 ヤブツバキ 1.1 ヤブコウジ 2.2 シロダモ 1.1 サルトリイバラ + シラカシ + ジャノヒゲ +2 トウゲシバ + ベニシダ 1.2 クズ 1.1 ヒサカキ 1.1 ウリカエデ + キジノオシダ + |
亜高木層 樹高8〜10m植被率95% ウラジロガシ 3.3 タカノツメ 2.2 エノキ 1.1 アラカシ 1.1 タブノキ 1.1 ケヤキ 2.2 低木層 1.5〜5m 75% アオキ 3.3 ネズミモチ 2.2 ヒサカキ 2.2 シロダモ 1.1 ウリカエデ + イズセンリョウ 1.1 アセビ 1.1 |
草本層 0〜1m 15% ベニシダ 2.2 キジノオシダ 1.2 ヤブコウジ 1.1 コツクバネウツギ + コサンショウソウ 1.1 ヤブツバキ + ナルコユリ + コバノトネリコ + コガクウツギ + テイカカズラ 1.1 ハイノキ 1.1 フユイチゴ + イヌビワ + ヤノネシダ 1.1 ヒノキゴケ + イトスゲsp. + |
河辺の岩の多い部分は、ケヤキ・イロハモミジ・タブ・カシ類の混在する林が形成されている。カシ類はアラカシ・ウラジロガシが多いが、土壌の形成されている部分にはシラカシも生育している。
本来、矢部村のブナ林域下部の河岸部分は、ヤブツバキクラスに属しており、土壌の深い部分ではホソバタブ・アオキ群落、岩の多い部分ではアラカシ・ウラジロガシが主体となり、それぞれの常緑照葉樹内にケヤキ・イロハモミジ・エノキなどが混成する河辺林が形成されていたものと思われる。
表8に御側川中流域の河辺林(写真16)の調査結果を示す。
河辺林(写真16) | シオジ林(写真17) |
高木層 樹高10〜15m 植被率85% アラカシ 2.2 ウラジロガシ 2.2 ケヤキ 3.3 アワブキ 2.2 イロハモミジ 2.2 亜高木層 5〜10m 60% ヤダケ 2.2 ヤブツバキ 1.2 タラヨウ 1.1 ハマクサギ 2.2 シラキ 2.2 アワブキ 1.1 低木層 1〜2m 45% ホソバタブ 1.2 シロダモ 1.1 アオキ 2.2 ハイノキ 1.1 コガクウツギ 2.2 アラカシ 1.1 ムベ + カヤ 1.1 ムラサキシキブ 2.2 イズセンリョウ + タラヨウ 1.1 ツリバナ 1.1 ヒサカキ 1.1 |
草本層 0〜1m 30% タブ 2.2 ベニシダ 1.2 ウリノキ + フユイチゴ 1.1 ビナンカズラ + ジュウモンジシダ 1.1 テイカカズラ 1.2 ヤノネシダ +2 ホソバカナワラビ 1.1 イノデモドキ 1.1 ジャノヒゲ 1.2 オオハンゲ + ヤマイヌワラビ + キヨタケシダ + ミヤマハハソ + ナルコユリ + ヤマフジ 1.1 キジノオシダ + シラキ + セリバオウレン + サジラン 1.1 シュンラン 1.2 イロハモミジ + ホラシノブsp. + カタヒバ 1.2 マメズタ 1.2 |
河川の上流域は山の斜面からの崩壊土が堆積し、土壌が厚くなり、水がたえず供給され湿った状態になる。このような場所では、一般に表日本ではシオジ林、裏日本ではトチノキ林が形成されている。
矢部村におけるシオジ林はすでに伐採されてしまい自然状態のものは見られないが、釈迦・御前岳のブナ林域の峡谷にかろうじてその痕跡が見られる。(写真17)
御前岳の大分県側や福岡県の英彦山では、今でもなお美しいシオジ林が保護されているが、釈迦・御前岳においてもかつては素晴らしいシオジ林が形成されていたと思われる。
シオジ林は一度伐採してしまうと、サワグルミ・チドリノキ・クマノミズキ・カエデ類などの二次林となってしまうため、その復元は困難である。
表9にシオジ林的部分の調査結果を示す。
高木層 樹高15〜20m 植被率95% シオジ 3.3 コハウチワカエデ 2.3 カナクギノキ 2.3 ゴトウズル 1.1 亜高木層 3〜10m 30% チドリノキ 2.3 ツリバナ 1.1 アブラチャン 1.1 低木層 1〜3m 50% コクサギ 2.3 ウリノキ 2.2 ミヤマイボタ 2.2 スズタケ 1.1 |
草本層 0〜1m 40% ゴトウズル 3.3 クロタキカズラ 1.1 ウリノキ 1.1 ジュウモンジシダ 1.1 クマワラビ 1.1 ミヤマイボタ 1.1 ナガバノモミジイチゴ 1.1 ボタンネコノメ 1.2 ヤマアジサイ + リョウブ + コバノトネリコ + イヌシデ + |
ケヤキ林(写真18) |
ケヤキ林はブナ帯下部に形成される渓谷林であるが、御側川の上流八ツ滝上部の谷筋に
植林としての美林が形成されている。
(写真18)
植林後約二〇年経過しているが、ケヤキの生育地として本来適した場所であり、
自然林に近い景観を示し、多くの人々の目を楽しませてくれる。
表10に八ツ滝上部のケヤキ林の調査結果を示す。
高木層 樹高20〜25m植被率85% ケヤキ 5.5 低木層 2〜5m 20% アオキ 2.3 ナワシログミ + イヌガヤ 1.1 ヒメウツギ 1.1 ムラサキシキブ 1.2 ミヤマハハソ 1.1 ウリノキ 1.2 クマイチゴ 1.1 コクサギ 1.1 草本層 0〜1m 100% オオモミジガサ 1.2 サワルリソウ 1.1 モミジガサ 2.2 イノデモドキ 1.1 ナガバノモミジイチゴ 2.2 コアカソ 1.1 イラクサ 2.3 |
オオヤマハコベ + ニワトコ 1.1 クロタキカズラ 1.2 ヤマアジサイ 2.2 オオマルバノテンニンソウ 2.2 アブラチャン 1.1 オオバショウマ 1.1 トチバニンジン + アカネ 1.1 マタタビ 1.1 カラクサイヌワラビ 1.2 ハナイカダ 1.1 ツクバネソウ + ミヤマヨメナsp. 1.1 フタリシズカ + クサヤツデ 2.2 クサギ + イボタノキ 1.1 ヒメヤマアザミ 1.1 フユイチゴ 1.1 |
スギ林(写真19) |
一般にスギは谷筋の湿潤地に、ヒノキは中腹のやや乾燥地に植林されるが、土壌条件の良い矢部村においては、ほとんど全域がスギの植林適地としてスギが植林されている。
しかし、一見同質のスギの植林地ではあっても、林床の植物を調査することによってその元の植生が何であったかを推測することができる。
表11は樅鶴川河岸付近のスギ植林(写真19)であるが、林床にケヤキ、イロハモミジ、アブラチャンなどの谷筋要素を持っている。
表12は釈迦ケ岳中腹におけるヒノキ植林であるが、林床に中間温帯のアカガシ・モミ林の要素を持っている。
したがって植林によって本来の姿は失われていても、植林内の植物の調査によって、ある程度の本来の自然林の姿をうかがい知ることができる。
高木層 樹高15〜20m植被率90% スギ 5.5 低木層 1〜2m 20% アブラチャン 1.1 ウリノキ 2.2 マタタビ 1.1 ケヤキ 1.1 エゴノキ 1.1 イロハモミジ 1.1 ウツギ + 草本層 O〜1m 90% ヤブミョウガ 1.1 ジュウモンジシダ 1.1 |
ヤマアイ 3.3 カラムシ 2.3 ゼンマイ 1.2 コアカソ 3.3 クズ + アオツヅラフジ 1.2 ノササゲ + ヤマブキ 1.1 ケヤキ + ヤマシロギク + クマワラビ 1.1 ヤマヤブソテツ + |
高木層 樹高15〜20m 植被率100% ヒノキ 5.5 低木層 1〜2m 10% ヤブツバキ 2.2 アラカシ 2.2 アカガシ 1.1 ネズミモチ + |
草本層 0〜0.5m 5% ヒヨドリバナ 1.1 ハエドクソウ 1.1 ヘクソカズラ 1.1 モミジウリノキ 1.2 タンナサワフタギ + カナクギノキ + チジミザサ + イワガラミ + |
モウソウ竹林(写真20) |
竹林は、本来熱帯の湿性植生の一つのタイプで、河辺のはんらん原などに急激に侵入する二次林である。矢部村の竹林は主にモウソウチクの植林であるが、マダケの植林もみられる。
モウソウチクは中国の原産で、日本へは一八二二〜一八三六年頃渡来し、鹿児島県、京都へ広がったといわれている。
表13はモウソウチク林(写真20)の調査結果を示す。
下草の刈り取りが盛んに行われており、かっての自然林は推測しにくいが、アオキの存在および周囲の樹林の状況から、ホソバタブ・アオキ群落の谷の植生であることが推測される。
高木層 樹高15〜20m 植被率90% モウソウチク 5.5 草本層 0〜1m 95% ノリウツギ 1.1 ゼンマイ 1.1 コアカソ 2.3 ヒカゲイノコズチ 2.2 キンミズヒキ 1.1 オカトラノオ 1.1 ナガバノモミジイチゴ 1.1 イノデモドキ + コガクウツギ 1.1 フユイチゴ 2.3 ヤマフジ + ナキリスゲ + アオキ + ホウチャクソウ + |
ノブドウ 1.1 ヤマイヌワラビsp. + ヤマウルシ + ヤマハゼ + キジノオシダ + ビロウドイチゴ 1.1 ヤマノイモ + ミゾコウジュ + チャノキ + ムラサキニガナ + カスミザクラ + ヨモギ + キカラスウリ 1.2 ヒメヤマアザミ + ススキ + ノササゲ + |
釈迦・御前岳の北斜面にまだ雪が残る頃、マンサク(写真21)が黄色の花を咲かせる。
マンサクは花の咲く時期が非常に早く、他の植物に先だって「まず咲く」がなまってその名がついたとの話があるが、矢部村の春もマンサクの花とともに訪れる。
御側川の谷間ではフサザクラ(写真22)、エドヒガン(写真23)、キブシ(写真24)などの木の花が咲き始め、かって製紙用として栽培されていたミツマタ(写真25)の鮮やかな黄金の花が林のあちこちを彩るようになると本格的な春を迎える。
人家、田畑などの周辺にはオオイヌノフグリ、ホトケノザ、スミレ、キランソウ、フキ、アマナ、フデリンドウ、ツクシショウジョウバカマなどの花も出揃い、村ではワラビ・ゼンマイ採りのシーズンである。
春の期間とくに目につく草の花は、オドリコソウ(写真26)、ムラサキケマン(写真27)、フウロケマン
(写真28)である。オドリコソウは手にとって見ると、まるで春の妖精たちがピンクのスカートをはいて踊っているかのように見える。
ヤマフジ(写真29)、コガクウツギ(写真30)、ツクシヤブウツギ(写真31)は春の木の花として最も長く<咲き、新緑の矢部村を美しく飾る。
注意深く観察すると、林縁の草地にはカノコソウ(写真32)の淡い桃色、やや湿った
日陰にはコンロンソウ(写真33)の白色花が、春の清々しさを強調している。
ノイバラ(写真34)
ウツギ(ウノハナ)(写真35)ヤマアジサイ(写真36)の咲く頃、矢部村の初夏である。
日向神ダム沿いに咲き乱れるノイバラの群落は、四月初旬のサクラの並木には見られない清楚さを示す。
ヤマアジサイは、お釈迦さまの誕生日、四月八日の花祭りに使用されるアマチャと同じ仲間で、アマチャの
代用品として利用できる。
ノアザミ(写真37)コウゾリナ(写真38)ニガナ(写真39)が道路を縁どる頃、矢部村に本格的な夏が訪れる。涼を求めて谷間に足を運ぶと、ヤブカンゾウ(写真40)オオキツネノカミソリ(写真41)などが見られるのも
この頃である。
夏の間、猛暑に耐え最も長く咲きつづけているのがノリウツギ(写真42)である。田畑、林縁、道路沿いのいたるところに姿を見せる。
昔、この木の樹皮から粘液を取り、紙を漉く時ののりとして使用されていた。ノリがとれるウツギの名の由来である。
夏の終りを告げる頃スギ、タケの植林内および林縁にウバユリ(写真43)ヤブミョウガ(写真44)ヒヨドリバナ(写真45)が咲きはじめる。
ヒヨドリバナは秋の七草のひとつフジバカマによく似た草花で、ヒヨドリのうるさく鳴き始める頃に花を咲かせる
ことからその名が由来する。
ヒガンバナ(写真46)ツリフネソウ(写真47)は九月の花、ヒガンバナは彼岸の頃に咲くのでその名前がついた。有毒植物であるが、昔、鱗茎をさらしてデンプンをとり、
食用にしたと言われる。
ツリフネソウは矢部村の湿った場所の至るところにその姿を見せる。
花柄は細くその先に舟をつり下げたような格好をした紅紫色の花をつけ、人目を魅く。
ホウセンカと同じ仲間で、細いさやに触れると、さやがはじけて無数の種子を飛ばし繁殖する。
秋の花として最も長く咲きつづけるのは、民家近くではヨメナ(写真48)山間、林縁ではヤマシロギク(写真49)である。ツクシアザミ(写真50)ヒメヤマアザミも比較的長く咲く。それぞれ同じキクの仲間であるが、中でも
ヨメナは昔から山菜として利用され若葉をおひたしにして食べるとおいしい。
釈迦・御前岳の紅葉の
始まる頃、山間の道路沿いにヤクシソウ(写真51)シマカンギク(写真52)の黄色の蕾がふくらみ始める。
シマカンギクは別名アブラギクとも呼ばれ、昔その葉を油につけ薬用にしたといわれる。海岸から
山間部まで福岡県の各地に見られるが、矢部村では杣の里渓流公園の上部七〇〇メートル付近まで
生育しており、福岡県における最も高い位置での生育地と思われる。
シマカンギクの花の終わる頃、
いよいよ矢部村は冬の訪れとなる。庭にサザンカ、茶畑にチャの花の美しい頃である。
矢部村のはなごよみ | スクロールしてご覧ください |
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マンサク(写真21) | フサザクラ(写真22) |
エドヒガン(写真23) | キブシ(写真24) |
ミツマタ(写真25) | オドリコソウ(写真26) |
ムラサキケマン(写真27) | フウロケマン(写真28) |
ヤマフジ(写真29) | コガクウツギ(写真30) |
ツクシヤブウツギ(写真31) | カノコソウ(写真32) |
コンロンソウ(写真33) | ノイバラ(写真34) |
ウツギ(写真35) | ヤマアジサイ(写真36) |
ノアザミ(写真37) | コウゾリナ(写真38) |
ニガナ(写真39) | ヤブカンゾウ (写真40) |
オオキツネノカミソリ(写真41) | ノリウツギ(写真42) |
ウバユリ(写真43) | ヤブミョウガ(写真44) |
ヒヨドリバナ(写真45) | ヒガンバナ(写真46) |
ツリフネソウ(写真47) | ヨメナ(写真48) |
ヤマシロギク(写真49) | ツクシアザミ(写真50) |
ヤクシソウ(写真51) | シマカンギク(写真52) |