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    おこもり
   
  組々でもっとるお観音さんのお堂のお籠りばしよった。
お堂にゃたいがい、お観音さん、弘法さん、不動さん、薬師さんのごたるお仏さん達ばよ ういっしよにまつってあるもん。

  おこもりの時ゃちょいとお堂ば掃除したりお花上げたり、お燈明お線香どん上げておこも り宿で、まぜご飯炊いたりしてお仏さんにお供えしげ行くたい。

時にゃ、「いっちょ今日だんおこもりどんしゅうかのう」ち顔役のばばさんどんが云い出す と、すぐ話の燃えて楽しみのおこもりしよったこつもあったたい。

"楽しみこもり“じゃなかったっちゃ、やっぱおこもりどんするとが初手ん人達にとっちゃ何 よりの楽しみじゃっつろたい。
組うちで、うちからは何人かたるけんち、人数のしこ、 まあ一人前二合てん二合半てん米ばぬいて、油揚てん野菜のそぎ切りどん入れてまぜごはん 作って、大根てん何てん時季のもんで、ぬたどんして、ときにゃ味噌汁にお豆腐てん、かぶ 菜、大根、ねぎのごたるもんどん入れて、そりがその頃の村のおごちそじゃったたい。

そっでみんな楽しみで行きよったたい。夜遅うまでお喋りどんして。そげな色々のおこもりも大 正の末頃までで、この辺なもうなかごたるの。
おこもりに行くと、いっちょあたしにゃ 珍づらしかもんのあったもんの、そりゃこの辺のうちにゃよー人の掌の大きさぐらいの、帆 立貝じゃっつろか貝殻のお皿のありょったたい。

平らとうして、ぬたどんついでありょった、うちにゃなかたけん、何じゃりほんにめづらし かち思て見よったたい。

  十月にゃどこのお神でん、出雲の大社に寄り合うてお神達の話し合いしなさるげなけん、 どこのお宮でんお神はお留守げなたい。「見立てごもり」ちゃその集りにお立ちになるお神ば、 氏子どんがお見送りするとげな。九月の三十日の夜じゃったたい。

「待受けこもり」ちゃ、こんどは出雲からお帰りになるお神ばお迎いするとたい、十月三十日の 夜たい。初手はどっちでん旧暦でしよったが、後にゃ新暦になっとった。

  そのおこもりの時にゃ、芋のお煮〆、竹輪かまぼこ、おにぎり、お神酒てんば持って、お 宮の前てん横てんに長手ん入った角かご神燈の紙ば新しう張り替えたつに、灯ば入れて、ず らーっと並べて置きよった。

そして、男も女も子供も、組内中総出で絵馬堂や拝殿にあがって、持って来たおごちそのお弁 当どん開いて、お酒どん飲うで、喋ったりして夜おそうまで、もっとっと楽しみよったたい。
小まか子供だん寝入(え)ってしもうて、親どんが、ねっ袖(ねじり袖)ば即席のねんねこんごつ 着せて背負て帰って来よったたい。


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