SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語


    虫追い
   
  今はもうせんごつなったが、初手は稲かりどんがしまゆっと、よー虫追いちありょった。
虫追の一週間ぐらい前から向えの高皇宮で、太鼓てん鐘てん、どんどん打ったくって、打 ち方の稽古のありょった。ドンドンカンカンドンカンカンち云わせて、毎晩夜の夜―して打 っとるもんじゃけん、うちゃほーんにやかましうして、寝入らるるこつじゃなかもん。ばば さん達の、寝入られんち、くやみよんなさった。

  村の男の子どんが、大人のそげなこつにくわしか者ン達から習うて打ちよった。始めは大 人達が手取って打って教えよるばってん、いっ時すっと自分で打ちきるごつなりょった。
渡 辺の与さんたちが、そげんして手取ってよう教(おそ)えござったたい。男の子どんな、虫追 の時や、紅、白、青、紫、黄、ち云うごたるもすの布ばいくすじでん引きそろえたつでたす き掛けして、背中で結うだ先ばなーご房のごつ垂らしよった。

  国分の虫追にゃよそにゃなか、神の前ち云うとば、お宮の前でしよった。"神の前"は北野 の天満宮さんから打方ば伝えたつち云うこつじゃった。そげなこつの先生株の大人てん若け 者ンてんが神の前ばつとめよった。神の前は清が上手じゃったけんみんなに先生株で教えよ ったたい。ドドドドドドドーンち云わせて打ちよった。むつかしかったち清が話しよった。

神の前つとむる者ンなみんな裃ば着てしよったけん、いつでん裃はうちんとば人数のしこか しよったたい。神の前は虫追の時だけじゃなしお宮のお祭りの時もしよったごたる話じゃっ た。

  虫追の時ゃ、お宮の前で一番に神の前ば打って、浮立(ふりう)の赤しやぐまかぶったつど んがおどって、鉢巻して、五色のたすきかけてこしらえた子供どんのはやしばドンドンチャ ンチャンひとたかしやぎって、たいまつつけて、お宮から出て、村内、営所の前の町ち云う たっちゃその頃は十軒余りどんじゃったが、あげんとこばはやしながら廻って、田の方さん 出て、田ん中のぐるりば廻ってさるきよった。
藁こづみどんしてある田ん中でひとたかしや ぎっちゃ廻り廻りして行きよったたい。

  日清の役の時迄はたしかにあったがいつ頃止んだか憶えんたい。清達の大人になってから までしよったけん、日露の役頃迄はしたつじゃろのー。

  子供の頃田主丸の虫追いの時、ちようど岡野に行きあわせて見たこつのあった。あっちこ っち、たいまつつけて、はやしてねり廻した大―っか人形どんが、岡野の近所の川端のひろ っぱさん来て、そこで一番しまえにしやぎって、実盛てん、手塚ん太郎てんの大―っか藁人 形ば焼きすてたたい。そっで一番しまえまで見られてほんに面白かった。


前のお話へ  戻る      次へ  次のお話へ