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    おかちん(餅)つき
   
  うちのおかちん搗きゃ日の決まっとった。十二月二十六日たい。みんなおかちんつきの日 は知っとったけん、夜なっと出入の者ン達がぼろぼろ加勢に来よった。"さしき"で搗きよっ たけん臼も大っかし、何人ででん搗きよった。

そのうちのだりかが音頭取りになって、「中ショ端ショ」ち掛声かけて、賑やかなこつじゃった。
何時かだいぶん搗けたとき、調子に乗ってみんなで、"さしき"んさきにおかちんばつけて、 ワーち云うて高う差上げたけん、ちょうど臼の上に大っか梁の通っとったつに、ペターッち おかちんのひっついた。

そりから面白がって次の臼、次の臼ち、あらかた搗けたときそげんしてワーち梁にひっつく るもん。そっで後まで、黒うなった梁に白うおかちんのあとのついとりょった。

  搗き上ぐっと、うちん者も女(おなご)も加勢に来とるばばやいてん、おばやいどんも、み んなで丸めよった。一臼だん直ぐ出くるもん。一日は三升ばっかりじゃった。うちは、あん まり多うは搗きよらじゃった。多してん一俵足らずじやっつろ。

すぐ又旧のお正月前にも、どりしこか搗きよったけん。餅米は水車で搗いて来て洗うて大っ か桶に水入れて漬けとくたい。

そして大じょうけにうち上げといて、せいろで蒸すたい。佐平次が長う内に居ったけん、そ げなこつは、何でん佐平次がとりしきりよった。.あたしゃ柳の枝ば取って来てあるとに小 うもおかちんばちぎって柳餅ば作っとが子供のときゃ仕事じゃつた。おかちん丸めの方がよ かったばってん…。

  おかちんな、餅粟入れて、いく臼か粟おかちんも搗きよった。さっぱりした味でおいしか ったたい。かき餅も一うすばっかり作りょった。
黒砂糖ば入れよった。豆てん、胡麻てん、 昆布てん、街の方じゃ入るるとこもあったげな。
せり箱にのし餅のごつして入れといて、三、 四日たつてうすうカルタぐらいの大きさに切りょったたい。
日の立つと、堅となりすぎてな かなか切りにくなるけんで。

  おかちんつきの最後の臼で"みい(箕)の上"ち云うとば作りょった。臼の中にお湯さして、 おかちんば柔らこして、小豆餡ばまぶしつけたり、中に餡入れたつてん作って、大根、にー じん、かつをぶしのお膾とお酒ばみんなに出しよったたい。
みいの上は、お重に入れて、 燐り近所にくばるとがこの辺の習慣じゃったたい。


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