SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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藪の中 | ||
上ん段の藪ぁ北ん方の広うして大っか孟宗竹で、南ん方は真竹藪じやった。真竹藪ん南の 端ゃ楠んごたるもんてん棕梠てんの二、三本生えとって、真ン中にゃ大ーっか赤松の真直ぐ 伸うで竹藪の上にこーう枝拡げて、よーか格好しとった。何せ枝下の七間余りもあったけん で、遠ーかとっからも見えよった。其赤松の根にゃ、お線香茸のよう立ちょった。真竹と孟 宗竹の境んにきゃ、十坪ばっかり広葉んほーんに茂っとりょったたい。 広葉んにきから一段高うして孟宗藪じやった。孟宗藪ん方ぁ大ーっか楠、けやき、いっち(い ちいがし)、銀杏てんの、こう竹藪ん上に枝拡げて、どの木でんまーっ直ぐ伸うどりよった。 其下に椿の木てん、棕梠、字書柴どんがありよったばってん木の下にゃ色々な雑木てん雑草 のなし、孟宗の真竹んごつ立ちこうじゃおらんもんじゃけん、広うして其下に茣蓙どん敷い て遊びよった。孟宗藪の真中のこーう高うなって、そこに小まかお堂に山王さんば祀ってあっ て、その真西の藪の端に土饅頭んごたっとの在って、その上の石の祠にお観音さんば祀って あった。一番大っか楠にゃ、お神ば祀って〆繩張ってあった。 もう大正に成って西南ん隅弁天さんば祀ったたい。 藪ん中のあそここにゃよめよめさんの生えとった。よめよめさん摘んで束ねて、前髪とっ て、髪んごつ結うて、そのよめよめさんがままんたんごの主役じゃったたい。 春んなっと藪椿の藪ん中じゆう真赤になるごっ落ちょったけん、前ん年切って山んごつ積 んである藪の根の竹ん上、椿ん花ば伏せてずーっと並べて、伏せた花の穴に花びらば立つっ と、おひなさんのごつなるもん。そっでおひなさんなんごもよう仕よったたい。秋なっと、 いっち、の一杯落つるもん。うちでも拾よったばってん、近所ん子供どんが楽しうで拾い来 よった。 藪ん中にゃ大か木のあるし、表ん道の方も楠てん、欅てん、えんじゆてんの大木のあるも んじゃけん、ちーっと風ん吹くと、ごーうごうち云う風のほーんにしよった。 ※夜さりあたしがぐぜっ(愚図)たりして眠らんと、「早よお静まって(眠って)あしたは又早 よおひんならにゃ(お日に、目さます、起きる)いつまっでんお静まらんと、ゾーゾーどん(風) の汽車に乗って来ますばい」ち、おばやいの云わりよった。 そげん云わっと黙ってやすみよった。その頃あまあだ汽車がどげなもんか知らんけん、どこ か赤土山んごたっとこに、小笹のこう生えとっとこば、ずーうっと飛うで来よるごたる気の して、ゾーゾーどんがほーんにえすかった。飛うで来たゾーゾーどんが、藪ん中の大っか楠 の古株たんの穴ん中におるごたる気持んして、えーすかった。 よさりなると藪の中でとほけた声で、コーゾ(ふくろう)の鳴くもん、コゾコーゾコーゾ、コ ゾち云うて…。寒か晩だん、ギヤーち云う女狐の鳴声のするこつもよーありょったたい。 |