SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
|
||
果物、野菜 | ||
桃も苗取寄せて、水蜜桃ば山の段々畑に植えて、生るごつなったばってんあんまり思はし うはなかったごたる。山辺で、兵隊の演習んあっと、兵隊どんが、どんどんちぎって仕舞う ち山ん番が云うて来たりしよった。桜ん坊も植えとったが、花は咲くばってん土地の季候に 合わじゃったじゃろ、実はよう生らんもん落てて仕舞うて。 初め御井高等小学校の先生でのち三井農学校ん先生になんなさった福田忠太郎先生と、心 易かったけん、何でんよう教えて頂きよった。苗てん、種てんな、東京の滝野川てん西原て ろ云うとこから、案内書の送って来よったけん、色々取り寄せて裏ん畑に植えよった。 何時か玉葱の種取って植えたたい。その案内書が面白かもん、今から考ゆっと可笑しぅし て。玉葱は風に吹かれてゆらゆら揺るる度に大きうなるけん、球根に土ば被せんごつひげ根 だけ土の中に入るごつ、土ば球根のぐるりは除けとかにゃならんち云うこつじゃけん、そげ んしたたい。そうしたりゃ花ん咲したりして球根の出来たつは、小むして、紫てん、白てん、 色々の色んとの出来た。 種も思はしゅなかったじゃろ、その頃迄どーこん玉葱は作りゃおらじゃったけん、よう判 らんけん玉荵ちゃこげな物じゃろち思うとったたい。 そりから甘藍も作った。種取寄せて。そりが葉ばっかり太るもん。いくら肥やったっちゃ、 いっちょん葉が巻かんで風呂敷んごっ葉ばかり広うなるもん。福田先生にどげなこつじゃろ かち、おたづねしたりゃ、そりゃああた達ん辛抱ん足らんとたい、もういっとき待つとくと 巻くち教えなさったけん、そんなり大事にしとったりゃ、やっぱ後さんだんだん巻いて来て、 子供ん頭位大っかつが出けたたい。 そりからそりば自慢して山本に持って行ったりゃ、茂しゃんの、「ほーこりゃ真藤に出けた つげなばい」ち、めった感心しよんなさった。まあだ此辺にゃ甘藍ちゃ出けやおらじゃった けん。 そりから其のち、山本に行ってお蔵んにきの畑に行って見たりゃ、何じゃり青黄なかごたる もんに、ランプんホヤば被せてあるもん、男んおったけん、「ありゃ何の」ち聞いたりゃ 「甘藍でございます、いっちょん巻きまっせんけん、大っか葉ばむしって芯だけにして、ラ ンプんホヤ被せたなら巻くじゃうち思てそげんしとりますたい」ち云うもん、そんときゃも うこっちは先生株んつもりになっとるもんじゃけん、「冗談のごつ、そりゃ肥料どんやって、 ほーからかしとくと巻くばい」ち教えたたい。そりからあとで聞いたりゃ、やっぱ巻いたげな。 |