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    貂(てん)
   
  いつかあたしが上ん段の土蔵に何か出しに行ったりゃ、何やら鳴き声んするもん、何じゃ ろかち思うて見廻はしよったりゃ、壁ぎわの長持のとこから、鉄窓のとこさん貂が走って行 ったり来たりしよるもん。大ーっか尾じゃん。身体よりよっぽど大きうして、ポーッとした 尾で、その色が、緋貂、ち云うとじゃろ赤味がかってほーんに美しかもん。

  長持と壁の間に鳴き声のしよるもん。子が産れとるらしかたい、何匹かおるごたるもん。
あたしゃ急いでうちさん行って、貂がおるばいち云うたけん皆が来た。急いで取って返し たばってん、鉄窓の格子のとこから逃げたじゃろ、もう子貂も、おった跡が残っとるだけで 一匹もおらんごつなっとった。つぎつぎくわえて連れ出したじゃろ、ほんのちょいとの間じ ゃったばってん。鼬てん貂てんな、初手はようおりょったばってん、あげん美しか大っか緋 貂な今迄の間に、あん時よりほかに見たこつんなかばい。


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