SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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犬 | ||
うちにゃ昔から代々犬ば飼うとった様子じゃったが、お父っちゃまん代は居らじゃった。 ばってん、昭和の戦争の始まりかけの頃一辺、迷犬が入って来て、薪の中に、チャーンと四 五匹も子ば生んどるもん、子が居っとに追い出しもされんち、そのまゝうちに居着いとった が、子はまもの死んでしもた。年寄り犬で乳の出らん風じゃった。チンの交ったごたる毛の 長か黒犬で、そりが後足が一本チンバじゃん。どうしてか、あたしについてさるくもん。買 物にどん出ると、先立ってピヨッコピヨッコ、二本足で走って行きよった。 ところが雌犬のけん雄犬どんが何匹でん群れて着け付いてくるもん、そして、その犬の群ど んが畑ばほーんに荒らすげなたい。チンバの女犬が居るけん畑のあるるけん、その女犬ば引 渡してくれち、百姓の鹿さん達の掛け会ひに来て、とうとう黒犬は連れて行かれた。 可愛そうじゃったばってん仕様ん無かつたたい。二、三ヶ月だんうちに居っつろかの。其後 は又居らじゃったが、五年ばっかり前からグーが来て又犬の居るごつなったたい。可愛がら れて、グーチャンからグー様に位上げしてしもて…。 もと、うちに黒犬がおったつは、年取って神経痛じゃったじゃろか、時々手足ばピクピク させて、ヒャンヒャンち泣きよったたい。そりが死んだ後、どこからか飼犬がまよいこんで 来て、よう上ん段の小屋で子ば生むもんじゃけん、子はうちで養よったたい。一番よか子は 白じやった。首のあたりから毛が長うして背は振り分けになって、少し顔のあたり薄茶があ って、学校に行くときゃ野中のあたりまでついて来るけん、もう帰れち云うと。 振返り振返りしてすぐ帰りょった。野中ん入口の一丁田に、木賃宿のあって大っか犬のお ったつから、白がよう吠えられよった。 親は黒色じゃったげなばってん、どうしてあげん白かつが出けたじゃろか。白は一べん毛 の抜けて汚のうなったりゃ、次に長か毛に生え変って、ほーんに美しうなった。のちにおら んごつなった。皆は大方あんまり美しかったけん、毛ば取られたじゃろち云よった。 津福の有馬内蔵助さんち元の御家老さん方から白の次に貰うて来た犬じゃったが赤犬じゃ った。ちょっと洋犬がかった犬じやったごたる。誰かが赤犬は何かの薬になるちゅうて、清 水んにきで殺して食べたげな。村ん者じゃったち。 こりゃまあだ黒の時分じゃったが、あたしが御井高等んときで、ちょうど具合の悪うして、 早引して帰って来よるときじゃった。そげな時はいつでんな、八丁目(通町)ん立場(たてば) から車に乗るばってん、そんときゃどうしてか乗らずに歩いて来よったりゃ、一丁田の木質 宿の大っか犬から、黒が吠えられて、負きぅごたるけん、黒々、ち呼ぶばってん、どんどん 喧嘩しながら足形堤んにきの田の畔ん中さん行くもんじゃけん、雨の降るとにぐしょ濡れに なって、田の畔から黒ばようよう連れ出して帰って来たたい。 具合の悪るかったつに、そげなこつしたもんじゃけん、うちに帰って来たりゃ、ほーんに熱 んこう出てしもて、黄胆になって何でん黄のうなった。学期試験のありょったときじゃけん、 試験が受けられず、成績の順番札が番外で一番尻に掛けられた。その頃は学級の担任の先生 の名の後に、成績順に名前書いた木札ば掛げられよったたい。 そっで一番どん尻じゃけん口惜しかったけん、今度(こんだ)先生より先に掛けらるるごつ勉 強するち云うて、勉強しよったけん、皆から笑われよった。一番にゃなれじゃったばってん 大分上ん方にはなった。 ずーっと前、あたしが覚えんなか時分に、ぶち犬がおったげなが、どこに遊び行っとって ん、何時でん十二時になっと家に帰って来よったげな。その時分な、どこでんな、まあだ時 計ん無か時じゃったけん、村ん者な、ホーラ真藤さんのブチが帰りよるけん、もうひるじゃ ろち云うて、昼の用意ばしよったげな。大っか犬で村ん者も、ほんによか犬じゃったち褒め よった。知らん人から食べ物貰うたっちゃ、決して食べじゃったげな。 知っとる者からでん、お饅でん何でん丸ごつ貰うと、食べんで、つーっと畑ん隅さん持って 行って、サッサと埋めよったげな。割ってやらにゃ食べじゃったげな。 犬は男達が可愛がって食物やったり洗うたりしてやるし、猫は女達が世話してやりょった。 ときどき男達が女どんに、猫にばっかりおご馳走やるち云うて不足云うと、女どんな、男は 犬ばっかり可愛がるち云うて、よう犬猫んこつで口喧嘩しょった。 |