SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語


    梅林寺
   
  梅林寺は、初手はよう托鉢に来よんなさった。
  朝、今日はお世話になりますち云うて、坊んさんの知らせに来なさるけん「今日は梅林寺 ん坊んさん方の、托鉢すませて、お腹(なか)すかせておいるげなけん、美味しう作って盛ば ようして上げにゃならん」ち云うて、いつでん托鉢の時や、三人づつ、つんのうとんなさる けん、お精進のお料理ばいろいろ買う物な買うて来らせて作りょった。あとで聞きゃ、しや っちお精進料理でなかってん、なまぐさけでん、上ぐる物な何でん上がるちうこつじゃった。

  うちゃ、そげなこつは知らんけん、いつでんお精進で上げよった。お料理どんが出けて待っ とつと、お昼頃見えよった。御飯食べのお行儀の良かこつが、物音でん口音でんなーにんせ んもん、お椀類のお汁まで、美しう食べて仕舞なさるもん。碁盤どん出しとくと三時頃まで も、ゆーっくり碁どん打って帰りよんなさった。托鉢の外に、竹てん、笹うらてん、大根て ん、そげな物ば季節季節々々で貰い来よんなさった。

  うちゃ、お葬式てん年忌の時てんな、何軒でん坊んさんに来て頂きよった。うちの頼み寺 が千栄寺、正福寺はこの辺のお墓の管理しなさるお寺、宗旨違いばってん、正蓮寺、こりゃ ひいばばさんがお寺変りしとんなさらじやったけん、永福寺は真宗ばってん、ずーっと昔に 御縁があったっげな、石原、山本辺との…。

浄顕寺こりゃ二代目佐太夫さんのお世話やきの頼み寺、ばってんここは、その人の何かでば しなからにゃ来て頂きゃおらじゃった模様、そりから梅林寺、全部のお寺が皆んな一緒ち云 うわけじゃなかったばってん何げんかはこ葬式の時や一緒になりょんなさったけん、ほんに 面白かごたった。

それぞれ弟子坊んさん連れて来なさるけん、坊さんばかり十人ぐらいに成ってお膳ば上ぐっ と、やっぱ一番梅林寺がお行儀がようして次は千栄寺であとは、ぞろぞろペチャペチャ音立 ててじゃん。お経もみんな、めんめんのお経ば上げなさるもん、おーおーち云うとこもありゃ ヂャーヂャーち云うともあるし。

  梅林寺からの托鉢も、火事ん焼けたのち、何辺か来なさったばってん、うちが悪るうなっ て行くもんじゃけん遠慮しなさったじゃろ、間も無う来なさらんごつなるし、
こっちも盆正月のおつとめもよう仕きもんごつなったもんじゃけん、今は千栄寺だけたい。


前のお話へ  戻る      次へ  次のお話へ