SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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物貰い、門づけ | ||
あたしがまあだ生れん前のこつげなが、三味線ば、婆さんが弾いて、ぢいさんが貰い役の 年とった門付けの、よう来よったげな。 門の内にあった丹波栗の大っかっの、目通りんとこだん、五、六尺とはいわん位大きうし て一間ばかり上から枯れて、横から出た芽が、一抱どんちゃ云わんくらい大きなもんに成っ て、門の内一っぱい枝ば張っとっとば、その門づけの年とった夫婦がこーう見上げて、「ほん に、古りーい物じゃろのー」ち云うて、見て行きよったげなたい。 この栗の木はもとは実のよう生りょったげなが、のちにゃそげん生りょらじゃった。実の 落つる頃は、毎朝門あくる前に、前の晩落ちた分なうちから拾よったばってん、門あけてか ら落つるとは、近所ん子供達が拾よったたい。 物貰いが初手はほんに多かった。気のちっとどうかしとっともおった。二十代の若かつも 来よったが、そりがちっと頭ん間違つたっじゃった。女達か何かやろでちすっと、つうーっ と門の外さん出て行って「ここまで持って来にゃ、何の貰うちゃろか」ち云うげなももん。 貰う上横着ばっかり云うてからち、みんな笑よった。高良山の、"おしおい"どん、おしおい タゴ、に入れて杉の葉で家々ん門口にパラパラふって行きよったたい。たしか、"おしおい梅 ちゃん"ち云よったごたる。 うちにゃ貰い坊にやるとに、粟ばちゃんと用意して入れ物に入れてありょった。粟ん無か ごつなってからは米になっとった。もいっちょ手のこんだ貰い坊は、いつでん勝手口さん来 て今日は、おんばさんのおんなさるじゃうか」ち云うて、おもとに挨拶するげなもん、そし て道でどん逢うと「おろー、おんばさんな何処に行きなさったのち人通りの多か通の真ン中 で挨拶するけん「ほんに、てえ(堪え)がとうして」ちおもとが云よった。 いつかだん、 「此頃、六畳ば一間建て増ししましたけん、どうぞお遊び、お寄んなさい」ち云うげなもん。 いつでんおもとは、面喰らはされよったふうじゃん。 初手は、何宗か知らんばってん修業げな、水かかりやんぶ、ちおったたい。 寒か朝、裸で褌ひとつに、頭てん腰てんに、しめ繩張って、ごにょごにょごにょ、ほーん にやーかましう何かとなえながら来るもん。どこん家でん、桶に水ば一ぱい入れて、表ん道 端さん出しとくとそりば頭からザブーザブ、かかって行きよったたい。うちの火事のあった のちまで、一ぺん来たこつのあったが、そりから後は、いちーん来んごつなった。ほんにこ う、霜のジャキジャキするごたる朝来よったがのー。 |