SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語


    顔役ばばさん
   
  初手はの、村内には、婆さん達の顔役連中のござったたい。
  おむっつあんな、その大将株のごたるふうじゃったたい。ちょいとものの判って、小金(こ がね)どん貯め込うどるばばさんたちで、たいがい自作農のうちで、のちには織屋どんしよる とこへんのばばさんもあった。貯めた小金ば人に貸したりどんして、なかなか云い出(で)の 利いて、何か村の家ん中に、ごたごたどんがあると、そのばばさんどんが、相談相手になっ て、片付けてやる、ちゅうごたるふうで、おやじさんどんでん、ちょいと一目置いとったふ うたい。

  おむっつあん、おきくさん、おきのさん、おかめさん、きよのさん、てんち云う御連中で、 そのばばさん連中はよう寄合うて、お酒どん呑みござったふうじゃん。時々やうち来よった おタカにも呼びのつきよったげな。何時かぜひち云われて行ったげなりゃ、みんなちょいと お行儀のわるかげなもん。
酔っ払うて、ひざ小僧出して、お酒のまにゃんてん何てん云い出 さっしゃるげなもん。そっでそののちゃおタカは、どげん呼び出しの掛かったっちゃ行かじ ゃったたい。おタカはなかなかのしっかり者んで、女がお酒に酔うてみだれたりどうしたり、 どう云うこつじゃかち、腹立つる方じゃったけん。

  そのばばさん達やみんな女酒天童子ち云わるる方で、いつかだん、あんまり呑んで腰の立 たんごつなって、手に下駄はいて、そろーそろ道ば這うて帰りござったてんち笑い話のあり よったたい。

  そげなふうじゃったが、そのばばさんたちめ云うこつは男連中も、よう聞きよったふうで、 その頃の村が天下泰平じゃった証拠じゃうたい。


前のお話へ  戻る      次へ  次のお話へ