SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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人力車 | ||
人力車は、よかお方たちのおいでの時は二人曳きじゃった。都会地にゃ二人乗もあるてん 聞きよったたい。見たこつはなかったばってん。 こゝ辺で人力車に乗ると、人力車同志、行き合うたびに、ハネンカ、ハネンカ、ち云うけ ん、いっちょん好かじゃった。善導寺んにきで、向うから久留米さんお客乗せて来よるとに 逢うと、向うん車夫がこっちん車夫に、ハネンカち云うたい、そすと、お互いお客ば交換し て、善導寺ん方さん行きよった車は久留米さん引返し、久留米さん来よった車は善導寺さん 引返すたい。 そすと車夫たちが、おろ走ってよかもんじゃけんそげなこつするとたい。そりばってんうち は、いつでん与平の車に乗って行きよったけん、向うからハネンカち云うたっちゃ与平は知 らん顔して行って仕舞よった。たいていの車引は与平ば知っとったけん、「ありゃ、お抱え じゃんけん、ハネンぞ」ち云よった。 お抱えじゃなかばってん、お抱え同様うちん用のある時や、必ず、与平が他の口断ってでん、 来よったけんお抱えち思われとったつじゃろ。上郡にでん街にでん、おっ母さんにあたしが ついて行くと、おばやいもついて行くけん、車も与平一台じゃたらんけん、与平の心やすか 車が一、二台来よったけん、よそ行も大ごつじゃったたい。上郡辺に行くと、車夫まで泊り 込むこつもあったけん、お客うけた方も大ごつじゃっつろたいの。 |