SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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お 話 | ||
あたしどんが子供ん時も、桃太郎さん、金太郎さん、浦島さん、文福茶釜、かちかち山、 かぐや姫、大江山、八岐の大蛇退治、中将姫、牛若丸、静御前、巴御前ち云うごたる色々の 話のありょったたい。そりゃ誰でん知っとる話たい。そりに太閤記、忠臣蔵てん他に歌舞伎 の話てんみんな人の知っとる話たい。そのほか、歴史のなかの人たちの話てんじゃったたい。 なかにゃ馬鹿んごたる和尚さんと小僧さんてん、化物退治てんの話のありよったたい。 その頃ん昔話ば、いくつか話そうの。 一 大飯食いの女 昔々慾んっうがおったげなたい。 そしてお神にご願かけたげなたい。なーにん食べんで、どんどん働く嫁御ば、どうぞ呼 せて下さいち、一所懸命ご願かけたりゃ、ある日、お告げんあったげなたい。何月何日鳥居 のそばにおる女ば嫁ごにするごっち。 そっで、何月何日お告げの通りのとこに行ったりゃ女がおるけん、連れて帰って嫁ごにし たげなたい。そりからほんなこつ、なーにん食べんげな。そして働くこつが、働くこつが、 ほーんに働くげなもん。ほんによか嫁ごば授かったち喜びょったげなばってん、ほんにそり ばってん、あげん働くとに、なーにん食べんちや不思議なこつ。自分がおらん時、食べよっ とじゃなかろかち思うたげな。 そっでよそに行くけんち云うて、こっそーっと、つしに上って下の様子ば、うかがよったげ なりゃ、案のじょう、大釜さんに米仕込(しこ)で、どんどんご飯ば大釜いっぱい炊いたげな たい。そしてそりば、みーんなおむすびにしてしもて、いきなり髪ば引きほどいたげなりゃ、 髪の中に大きな口のあったげな。 その口の中さんおむすびばどんどん入れて、半切り一ぱいのおむすびば食べて仕舞たげなた い。あんまりのこつに男はガタガタふるえて、上のつしから、そのからになった半切りの中 に、ドサーッち落て込うだげなたい。 そりからその化物女がいきなり半切ば男ん入っとるなり頭に載せて、どんどん山ん中さん 入って行くげな。 「オーイ、人間つかまえて来たぞー」ち云うて。 男はどうしたもんじゃうかち、ふるえながら思よったりゃ、松の枝のこー出とっとん下ば 通るけん、チョーイとその枝につかまえたげな。そしてその木の下あたり、蓬てん菖蒲てん の、こー生い茂っとるげなけん、その中さん逃げ込うで、じーっとかくれとったげなりゃ、 女の化物がほかの化物どんば連れてさがし来たげな。 「たしかこの辺まちゃ半切りの中に入っとったが…」ち、どんどんさがすげな。ばってんそ げな菖蒲どんが、ごーほん茂っとるかげで、とうとう見つからずしまえたげな。化物だん 「仕様んなか、あした家さん探し行こ、大方帰っつろけん」ち云いながら帰って行ったげな。 そりから男はその辺に生えとる蓬てん菖蒲てんば、いーっぱいとって帰ったげな。そして軒 先てん屋根てんに、蓬と菖蒲ばいっぱい差し込うだり突きさしたりして、明けの日は家ば内 からつめて、家ん中にちゃーんとかくれとったげなりゃ、化物どんがぞろぞろ来たげなたい。 そして化物どんが家ば見たげなりゃ、いーっぱい屋根でん軒先でん、蓬てん菖蒲てんの生い 茂っとるげなもん。 「ふーんたった一晩ち思たりゃ、こりゃ、人間の世界やもう何年でんたっとるじゃろ、こ げん草の生い茂っとつとこ見りゃ、もうとてもここにゃ住んじゃおらんじゃろ。とうの昔ど こさんか逃げて行ったじゃろ」ち云うて帰ってしもたげな。 食べんで働く者てんなんてんそげなこつ云うたけん、そげなえすか目に逢はにゃならじゃ ったったい。 五月のお節句に菖蒲と、よもぎば軒先にさすとはそりから始まった魔よけのおまじないち う云い伝えたい。菖蒲と尚武ば、かけあわせたこつげなたい。 二 大蛤の女 昔々どこかに男がおったげな。 そりが食べ道楽かなにかで、お神に毎朝おーいしかおつけば食べさせて呉るる嫁ごば呼ば せて下さいち、ご願、掛けよったげなたい。そりからお告げのあって、いついつかの日、鳥 居のとこにおる女ば嫁ごにするごつち云うこつじゃったげなけん、お告げ通りに行ったげな りゃ、女がおるげなけん、連れて来て嫁ごさんにしたげなたい。 そりからほーんに毎朝のおつけがおいしかげなもん。 どうしてこげんおいしかおつけの出来るじゃうかち思うたげな。その嫁ごさんが、あたし がおつけ炊くとこば決して見てくれなさるなち、一番初め止めとったげなばってん、どうし てでん、どげんして炊くか見ろごつなったげなけん、ある朝こっそーっと物かげからのぞき よったげなりゃ、おつけば炊き始めたげな。 煮立って来たときその嫁ごさんが裾まくっていきなりおつけ鍋の中に、ショーツちおしっこ ばしこうだげなけん、男はびーっくりしたげな。嫁ごさんな、そげなとこ見られたけん、も うこのうちにゃおられんけん帰るち云うて出て行ったげなけん、男が後ば追うて行ったげな たい。 そしたりゃ嫁ごさんなどんどん浜辺さん行くげなもん。そして波打ぎわに行って、「われは この海に住む大蛤なりイー」ち云うて、ドブーンち海に飛び込うだげなりゃ、大きな蛤なっ て海の底さん沈うで行ったげな。おしっこち見えたつは、その蛤が身体の味ば絞り出して入 れよったつげなたい。 法外のこつ望うだっちゃ、とてもあたり前の者で出来るこっぢゃなか化物でばしなからに ゃち云うこったい。 三 大蛇退治 ◎註 武家伝承 昔々ある池に大蛇が住んで牛馬んごたっとでん呑うで、雨ば降らせじゃったりほんにわる さして土地の者が困りよったげなたい。 そっで其あたり住んどんなさる豪傑が、退治しゅうち云うて、馬に乗って弓矢ば持って、 大蛇の住む池の端に行きなさったげな。 見なさったげなりゃ、小ーまかくちなわどんが、ちょろ、ちょろ、ちょろ出て来たげなけ ん、豪傑は大声張り上げて「この池に住む大蛇、正体を現わせッ」ちおらびなさったげな。 そうしたりゃ池水がごうごう鳴って、波が真白立ってその中からごーほな大蛇が出て来て、 豪傑にしかかって来たげな。 豪傑は、弓に矢つがえてビューッち射んなさったげなばってん、鱗にカッンち当って、矢は 落ててしまうげなもん。そっでこんどは目ばねろうて、ビューッち射んなさったげなりゃ目 の玉にピシーツちぬかり込うだげなまた続いて一方の目も射つぶしなさったげなけん大蛇が 大口開けて仕掛かって来たげな、今だ、そののど目がけて矢ば射込みなさったげな、ねらい たがわず大蛇ののどに矢が立ったげな。 そーりから、なほ大蛇は大荒れして尾振り上げてビウビウ仕掛って来て、さすがの豪傑も、 もうとても叶わんち馬ばどんどん走らせてにげなさったげな。大蛇は後からどんどんおいか けてくるげな。よかしこ逃げて、後見なさったげなりゃ、大蛇はもう姿が見えじゃったけん やれやれち思て、行く手にあった森陰に馬乗り入れて一息吐きながら、ひよいと木の上ば見 なさったげなりゃ、ちゃーんと大蛇が木の上に登っとるげな先廻りして。 そーりから又豪傑は馬ばどんどん走らせて逃げなさっと又うしろからどんどん大蛇が追うて 来たげな。ようようお屋敷さん帰って来て、御門に駈けこうで、「門番門せけーッ」ち云い なさったけん、ぎーっち御門の扉がしまったげなたい。豪傑はほっとして馬から降りて、お 玄関の敷台に腰かけて沓ば脱ぎよんなさったげなりゃ、そこに大蛇が追いかけて来て、ご門 のしまっとるもんじゃけん、ご門の屋根の上に、こう鎌首のせかけて、沓脱ぎよんなさる豪 傑目がけて、身体中の毒気ば絞り出して、ハーッち吐きかけたげなけん、豪傑はバターッち 倒れて死んで仕舞いなさったげな乗って来なさった馬もバッタリたをれて死んでしもたげな。 大蛇もまた門に首のせたまま死んで仕もたげな。あげんとの死ぬときの最後の息には毒気 があるげなけんの。 四 チンチクリン ◎註 武家伝承 昔々或る処に古るか荒寺のあって、夜になると化物の出るち云うこつげなたい。 村ん者もえすがって寄っつききらじゃったげな。いままでに、何人でん武者修業のお侍が 来て退治するち行って、みんな食べられよったげな。 そこに又武者修業のお侍が来て「よし、そんなら拙者が退治してやる」ち云うて、その荒 寺に入って行きなさったげな。物かげにかくれて、ぢーっと夜になっとば待っとんなさった げな。夜もだんだん更けて、真夜中になって来たげなりゃ、おみ堂の表ん方に誰かが来たげ な。 そして「椿椿居士はおうちでご座るか」ち呼ぶげなするとお寺ん中から、「うちに居ります。 どなたでご座る」ち返事のあったげな。そしたりゃ「珍竹林の半足鶏」(チンチクリンのハン ゾクケイ)ち云うたげな。そりから、お寺ん中から「お上り召され」ち声のしたげな。 そすと、ドタッドタッドタッち、何じゃり片足で歩るくごたる音ん本堂の方さん行ったげな。 そりからいっときして又、「椿々居士はおうちでご座るか」ち何かが来たげなたい。「うちに おります。どなたでござる」「南池の大魚」(ナンチのタイギョ)「お上り召され」で、こんだ ドタバタ、ドタバタ、ち大っかもんの這いずって行くごたる音の本堂の方さん行ったげな。 そして明け方迄、グドグドグド、何じゃり話し声のしよったげなが、夜明け頃にゃ本堂もし ーんと静まり返ったげな。 村ん者達や、大方武者修業のお侍や化物に食べられなさったじゃうち云よったげなりゃ、 お侍がお寺から出て来て、この辺に珍竹林ななかか、ち聞きなさったけん、大っか珍竹藪の ありますちうこつで、その藪ば村ん者達に探させなさったげなりゃ、大ーきな一本足の古鶏 の居ったけん、そりばつかめて退治しなさったげな。 南の方に池はなかかち云いなさったげなりゃ、ございますちうこつで、そんなら干して見れ ち云いなさったけん村中で干したげな、そりからごーほな大っか魚ん出て来たげな、そっで そりば退治したげな。こんだ、お寺の本堂の床下に椿の古株のあるか探せち、云いなさった けん又皆で床下に入って探して見たげなりゃ、大っか椿の古株タンのあったけん、そりば掘 り出させて焼き棄てなさったげな。そりから後化物なぱったり出らんごつなったげなたい。 五 えゝかん、ふうとん 昔々あるお寺に和尚さんと小僧さん二人が住んどったげなたい。 その和尚さんがほーんに、しわんつうげなもん。毎晩小僧さん達が休うでから和尚さんの 一人でお酒のお燗つけて、おかちんば焼いて食べらっしゃるげなたい。お燗のつくと「あー えゝかん、えゝかん」ち云うて呑うで、おかちんの焼くっと、熱かもんじゃけん、フーち吹 いて、トントンち云うて叩いて灰落して、食べらっしゃるげな。(昔は餅は熱灰に埋めて焼い たそうな) そこで小僧さん二人が相談して、或る日和尚さんに、「私たちゃ、今までん名ば二人ながら 変ゆうち思いますけん、私しゃ永寛、私しゃ風頓ち変えます」ち云うたげな。和尚さんな、「フ ーム面白か名でそりゃ良かろ」ち云うてじゃったげな。 そりから其晩、いつでんのごつ夜遅うなってお燗のついたけん、和尚さんの「あーえゝか ん、えゝかん」ち云うて呑み出さっしゃったりゃ「はーい、何かご用でございまっしうか」 ち、永寛が出て行ったげな。和尚さんな、失敗もたち思わっしゃったげなばってん、永寛が 起きって来たもんじゃけん、「お前呼うだわけじゃなかったばってん、折角来たならお酒呑う で行け」ち云うて、小僧さんにも呑ませてじやったげな。 そりから又、いっときしたりゃ、おかちんの焼けたもんじゃけん、「フートントン」ちおか ちんば吹いて、トントン云いながら叩かっしゃったげなけん、こんだ、風頓が「ハーイ」ち 云うて出たげな。そりから「お前呼うだわけじゃなかったばってん、まあ起って来たなら、 おかちんどんたべて行け」ち云うて、食べさせらっしゃったげな。そりから和尚さんも思い 当って、小僧さん達にも食べさするごつならっしゃったげな。 六 おかちん小僧 昔々或るお寺におしようさんと、小僧さんが住んどったげな。和尚さんな、おかちん好き のしわんつうじゃつたけん、おかちん食ぶる時や、いつでん小僧さんばお使い出して、火鉢 の熱か灰の中におかちんばいけ込うで焼いて食べらっしゃるげな。そっで小僧さんがある日 考えたげな。いつでんのごつ、お使いに出されたけん、行ったふうえして戸の隙間からじー っと見よったげな。そりから和尚さんのいつでんの通り、おかちん出して来て、あっちこっ ち火鉢の熱灰の中におかちんば埋め込まっしやったげなたい。 小僧さんな、そのおかちんの、もうちょうど焼けたち思う頃、表の戸口ば、いきなり引き あけて、「あーえっさ、えっさ」ち云うて上って火鉢ん端に坐り込うだげな。和尚さんなびっ くりして「一体どうしたかの」ち聞いてじやったげなけん、小僧さんが「お使い行きょりま したりゃ、向うから放れ馬がどんどん走って来ますもんじゃけん」ち火箸で灰の中に「こー う走って逃げて」ち地図描きながら、さっから見とったおかちん埋めてあるとこさん筋引張 って「あ、おかちんどんがある」ちほじくり出すげなもん。そしてまた「そりからこー逃げ たりゃ、こっちから馬ん来て、ア、またおかちんのある」「えすかけんこっちの角ば曲ったり ゃ、ア、またおかちん」 「まあたこっつあん馬ん来て、ア、またおかちん」「さっさとこっちさん逃げたりゃ、アリ ャまたおかちん」ちみんな、ちょうど焼けたてのおかちんば掘り出してしもて、「そっでえす うしてとうとう逃げて来ました」ち云うたげな。和尚さんなそっで仕方なし「そげんえすか 目に逢うたなら、まあ餅どん食えち云うて小僧さんにも分けてやらしっしゃったげなたい。 七 漬あみ坊んさん 昔々或るところに、和尚さんと小僧さんが住んどったげなたい。 和尚さんな坊んさんのくせに、漬あみ好きげなたい。いつでん蓋物に入れて蠅入らずの中 にちゃーんと入れて一人で食べらっしゃるげなたい。しわんつうじゃけん。 そっで、あるとき和尚さんの壇家にお経あげに行かっしやった留守に、小僧さんが漬あみ ば食べて、残っとつとば本堂の阿弥陀さんの口ん端にひっつけといて、知らーん顔しとった げな。和尚さんな帰って来て、また漬あみ食びうでちせらっしゃったりゃ、蓋物にゃ何ーに ん入っちゃおらんげなもん。 「こらこら小僧、お前が漬あみ食べたじゃろ」ち叱らっしやったげなりゃ、小僧さんな、 「いーえ漬あみてん何てん一向知りまっせんばい、そりばってん、さっから、何かコトー ンコトン本堂の方から音んして来てまた本堂さん音ん帰って行きましたが…」ち、云うけ ん、和尚さんの不思議思うて本堂さん行かっしゃったりゃ、阿弥陀さんの口ん端にベッタ リ漬あみのついとるげなもん。 和尚さんの「何の阿弥陀さんの食べなさろに、お前の仕業に違いなか」ち云わっしゃった けん、小僧さんが、「そんなら阿弥陀さんに聞きなさったがよか」ち云うけん、和尚さん の「阿弥陀さん、仏さんの漬けあみ食べたり、どうしてしなさったか」ち阿弥陀さんば叩 かっしゃったげな。そしたりゃ阿弥陀さんな銅(からかね)じゃけん、クワーンち云はっしゃったげな。 「そーら見ろ、阿弥陀さんなクワーンち云よんなさる」ち和尚さんの云はっしゃったけん、 小僧さんが「なんの阿弥陀さんのすらごつ云よんなさる、そん位叩きなさったっちゃなんの ほんなこつ云いなさろに、私が白状させて見せまっしゅ」ち云うて、阿弥陀さんば引っかろ うて、たんぼ(下水溝)の泥ん中に逆さまに突っ込んだりゃ、阿弥陀さんの、クタ、クタ、ク タ、ち云いながら泥水の中に顔ば突っ込まっしゃったげなけん、「そーら、クタ、クタ、クタ ち云よんなさる」ち云うて小僧さんの勝ちじやったげなたい。しわんつう和尚さんのおかげ で阿弥陀さんこそ、えゝ迷惑じゃったたい。 八 小めくら爺イ 昔々或るところに、よか爺さんと、慾んつう爺さんと住んどったげなたい。 よか爺さんが山からたきもん(薪)取って町に売り行ったげなばってん、夕方になってん一 把でん売れんげなもん。うちさん持って帰っとも大ごっじゃし、丁度橋の上に来たけん橋の 上から薪ばみーんな「龍宮の乙姫様に上げまあーす」ち云うて川の中に投げ込まっしゃった げな。そして「あー、スッカリした、軽るうなって」ち思うて帰りかけらっしゃったげなり ゃ、後ん方から誰かが「もーし、もーし」ち呼ぶげな、他にゃ誰んおらんけん「私んこつで ございまっしゅか」、ち云うて引返さっしゃったげなりゃ、立派な着物着た女子(おなご)ん人 が橋んそばに立っとるげなもん。そして「今乙姫様に薪ん上げて頂いてありがとうございま した。乙姫様の喜うでお礼にこの打出の小槌ば上ぐるち云うこつでございます。 何でん自分の望みのもんば、一振りに一事づつ願うて小槌ば振るごつち云うこつでござい ます」ち云うて、打出の小槌ば渡して、その人は又水ん中さん帰って行ったげな。 ぢいさんな喜うで家に帰ってばばさんと相談して、何ち云うてん、米が一番よかけん、米 とそりば入るる蔵がよかろち云うて、「蔵」ち云うて小槌ば振ったげなりゃ立派な大ーきな蔵 の出て来たげな。そりから又「米」ち云うて振ったりゃ、その蔵いーぱい米ん詰ったげな。 そっでもう薪売りにも行かんで、ゆっくり暮さるるごつなったげな。 そりば知った慾んつうぢいさんが、ばばさんと相談して「いっちょ自分達も、乙姫様から 打出の小槌ば貰おう」ち云うて、薪ば橋の上から「龍宮の乙姫様に上げまあーす」ち云うて、 ドブーンち投げ込うで、もう誰か後から呼びゃせんじゃうかち思いながら帰って来よったり ゃ、また「もーし、もーし」ち呼び帰されて、打出の小槌ば、一振り一事づつ願うて振るご つち云うて、慾んつうぢいさんも貰うたげな。 そして、うちさん帰って、ばばさんと二人、早よ米と蔵ば自分達も出そごたるもんじゃけん、 おろたえて、米蔵ち呼うだげなりゃ、米と蔵じゃなしに、小ーまか豆粒んごたる盲どんが、 ぐーじぐじ出て来て、ぢいさんどうするの、ばばさんどうするのち、がやがやワヤワヤ、 取りついて来るげなもん。 しわんつうぢいばばさんだん、びっくりして、せからしうなったもんじゃけん腹かいて、 「えーせからしか!犬の糞!」ち、おろうだげなりゃ、小盲ん上に犬の糞まで一っぱい出 て来て、とうとうしわんつうちいばばさんだん小盲と犬の糞に身動きならんごつ埋まって しもたげなたい。 九 猟師の信心 昔々鳥てん、けだものてんば獲って暮しば立てとる猟師がくさい。いつか高か山の天ぺん の岩の上に白かもんのおっとば見つけたけん、大方白か鹿かなにかじゃうち思て、撃とでち こーうねらいつけよったげなりゃ、その白か物が「もーしもし、私や人間でございまーす」 ちおらぶげなもん。 猟師ゃびっくりして、どうしてあげなとこに人間がおるもんじゃりち思うて登って行って 見たげなりゃ、岩ん上に白装束で身ごしらえして手におじゅずどん持っとる人げなもん。一 体どうして、こげな崖の岩の上におんなさるかち聞いたげなりゃ「私や永いこつ、如来様ば 信心してお浄土にお迎え頂くごつち、毎日お願いして来ましたりゃ、何月何日何刻にどこそ こ山の頂きで待って居りゃ、お迎のあるちう如来様のお告げがありましたけん、いま、ここ にこげんしてご来迎ばお待ちしとっとこでございます」ち云うげなもん。 猟師は、ほんに世の中にゃ仏様のお迎い受くるごつ信心深か人もあるもんに、自分な鳥て んけだもんば殺して、今まで暮しば立てて来た。ほんになんちゅう罪深かこつばして来たも んじゃりち心から悔い改めたげな。そして持っとった鉄砲ば、崖下さんぽーんち投げ捨てて しもたげな。 そして「私もどうかあなたのお供ばさせて頂きますごつ」ち願うて、二人で一心に如来様ば 念じよったげなりゃ、お告げの時刻が来て西の空から、ピーピードーンち云う音楽の音のし てだんだん近よって来たげなけん、二人ながら一所懸命拝みよるうちに、すーっと紫の雲の 降りて来て、二人の坐っとる岩から一間ばっかり離れたとこで、ピターッと止ったげなたい。 心から悔い改めて如来様ば念じりよった猟師や、そりば見っと、ヒラーッとその雲めがけて 飛び乗ったげな。そうしたりゃ猟師の身体からサーッと金色の後光がさして、紫の雲が、猟 師ばずーっと包み込うでしもたげな。ばってん初からご来迎ば待っとった信者の方は、雲と 崖との問の一間ばかりりの隙間がえすうして、とうとう飛び乗りきらんで、もそもそしよる うちに紫の雲は仏様になった猟師一人ば包み込うだなりで、また音楽と一緒に西の空の入り 陽のなかに消えて行ったげなたい。信者は取り残されたげなたい。 十 たくあん風呂 昔々、或るところに娘がおったげな。 手習てん、行儀作法習いお寺に行きよったげなたい。そすと、いつでん和尚さんのご飯食 べなさっとき熱かお茶かけご飯して、百本漬(沢庵漬)ばそれ入れて、こうこう掻きまぜて食 べなさるげなたい。娘は「ほう、熱かもんな、あげん百本漬でまぜくって、さますもんばい のー」ち思とったげな。 そして始めて嫁入先でお湯に入ったりゃ、ほーんに熱かげなもん、水でぬべたっちゃよかばっ てん、あげんお寺ん和尚さんな、熱つかお茶ば百本漬でまぜくって、さまして食べよんなさっ たけん、百本漬でさました方が礼儀に叶うとるじゃうち思うたげな。嫁入ったからにゃお行 儀に叶うたごつせにゃ笑らわるるじゃろち思て、うちの人に「あの百本漬ば、二、三本出し てくれなさい」ち云うたげな。 うちん人はこの嫁ごさんな妙なこつば云うもんたいち思うたばってん、百本漬ば出してやっ たげなたい。そりから、その嫁ごさんが風呂桶んなかば百本漬の大根で、がばーがば、かき まぜたげなばってん、お湯はあんまり冷えん上、お漬物臭うなって、あとん者なお湯に入ら れんごっなって仕舞うたげなたい。 十一 かめと風呂 あるところに、かめ、ち云う馬鹿がおったげなたい。 そのかめの、かかさんの年忌の来たけん、ご法事せじゃこてち云うこつで、かめがお寺に ご法事の案内行くこつになったげな。かめはお寺にそりまで行ったこつんなかったけん、「お しよさんな、どけ、どげんしてござるかい」ち、家ん者んに云うけんで「お寺に行くと、黒 か衣きてこ坐る」ちうちん者が教えたげな。かめはお寺にいったりゃ、山門のとこに真黒か 牛ん居ったげなけん、ほーこの黒かっが和尚さんばいのーち思て、「和尚さん、あしたかかさ んの年忌ばするけん、お経あげ来てくれなさい」ち牛云うたげな。 そしたりゃその黒牛が「もー」ち云うげな、「もーじゃなかあした」ち云うたりゃ又「もー」 ち云うげな。どげんかめが、「あした」ち云うてん「もー」ち云うげなもんじゃけん、とう とう亀は腹かいて帰って来たげな。 うちん者が「そりゃ牛たい。和尚さんな、おみ堂ん上にござる」ち云うたけん、亀は又お寺さ ん行って見たげなりゃ、お御堂ん上にからすのとまっとるげな。あーありがおしよさんばいの ち思て、「和尚さんあしたかかさんの年忌するけん、お経あげ来てくれなさい」ちたのだげな りゃ「コカー」ち烏が鳴いたげなけん「子じゃなか、かかさん」ち亀が云うたりゃ又「子かー」 ち鳴くげな、何辺かかさんち云うてん、子か、ち云うもんじゃけん又亀はプンプン腹かいて帰っ て、「何辺かかさんち云うてん子かー子かーち云う」ち家ん者に話したげな。 「そりゃおまや、からすたい。和尚さんなおみ堂ん内にご坐る」ち云われて、又又お寺に行って ようよう、和尚さんに、年忌の案内が出けたげな。 そりから翌日年忌の日になったけん、和尚さんに年忌のおごっつを(おごちそ)に甘酒ば作 っとったつば出すけん、つしから甘酒瓶ば降ろすこつなって、家ん者がつし登って上から「亀 やい、上から甘酒瓶ば降ろすけん瓶ん尻ばしっかりかかえとかさい」ち下に居る亀に云うた げな「うーん、かかえとーく」ち亀が下から云うけん、家ん者がつしの降り口から瓶ば半分 降ろしかけて、「そーら、おろすぞ瓶ん尻抱えたかい」ち念押したげなりゃ「よーし、しっか り抱えとる」ち亀が云うたもんじゃけん、家ん者が瓶から手ば放したげなりゃ、瓶は、スト ーンち土間に落てて破れて、甘酒はすったり土の上にこぼれでてしもたげな。 なーんの亀は、瓶ん尻じゃなし自分の尻ば、しっかり両手で抱えとったっじゃったげなたい。 和尚さんに出すおごっつをの甘酒は、そげなふうでのうなってしもたもんじゃけん、そん なら風呂どんわかして和尚さんのおごっつをにせじゃこて、で、風呂どんが沸いたげな。和 尚さんな、よろこうで風呂にはいってじやったげなりゃ、ちーっとばっかりぬるかったけん、 風呂ば炊きよりた亀に「その辺にあるもんばなんなっとんも一くべしてくれんかの」ち云う てじゃったげな。 そりからお湯の熱うなって、和尚さんな「あーあ、よか湯じやった」ち云うて風呂から上っ てござったげな。そして衣着ろでちしてじやったりゃ、衣ん無かげなもん「亀やい、ここに 脱いどった衣はどこさんやったかの」ち、云うてじゃったりゃ、「和尚さんの其辺にあるも んば何なっとん、くべてくれち云わしゃったけん、燃えたたい」ち亀が云う たげな。 和尚さんな、仕様んなかもんじゃけん、裏ん畑の里芋ん葉どん被って帰らっしゃったげな たい。 十二 タンガク ◎註 韓国民話にほとんど同じ話がある 昔々あるとこに、誰かのごたる横ぜ者ん(よこつき者)のタンガク(蛙)が、かかさんタンガ クと住んどったげなたい。 そのかかさんタンガクが病気のひどなって、もうむつかしかごつなったけん、子タンガク に、「あたいが死んだなら、川ん端に埋めてくれっさい」ち遺言したげな。山に埋めてくれち 云うたなら、又横ついて、川ん端にどん埋むるじゃろ、川ん端に埋めてくれち云うとったな ら、山に埋めてくりゅうけんで、ち思て、そげん遺言したつじゃったげな。 ところが、かかさんに死なれて、さすがの子タンガクも、ようよう自分が横ぜ者んで、親 ん云うこつの反対ばっかりしょったこつば悪るかったち気の付いて、ほんと悔うで、せめて、 遺言だけなっとん、かかさんの云い付け通りせじゃこて、ち思て、遺言通りかかさんば川ん 端に埋めたげな。 そりからち云うもんな、雨ん降るたんびに、子タンガクあ、川ん水んふえて、かかさんの 流されらっしゃるじゃなかろかち、心配になって、雨ん降り出すとあげん"かかさんの流れら っしゃろー、ゲロゲロゲロゲロ“ち鳴くとげなたい。 横ぜもんのこつば、"タンガク"ちこの辺で云うとは、そっでげなたい。 "粟ふむな" どこかで、貧ぶ(乏)人が子供三人残け(こし)て死んだげな。あんまり貧ぶのけん、だーり ん加勢ん泣きん来てやらんもんじゃけん、仕方なし子供二人でお棺かついで、一人ん子がお 棺の後から、"あー悲しや"ち泣きながら、畑ん中ん道ば墓どこさん埋めげ行きょったげなた い。 そりから、三味線弾きん通りかゝって、「ほんにむぞーなげ(無惨な、可愛そうに)、そんな ら三味線なっとん弾いで野辺立って(送葬して)やろ、」ち云うて、"あー悲しや、チリンコツ ンテン"ち弾きながらいっしよに行きょったげな。 そけこんだ、つづみ打ちの来合せて、「そげなこつなら、あたいも(自分も)つづみ打って送 って行こ、」ち云うて、"あー悲しや、チリンコツンテン、チヤッポンポン"ち鳴らして行きょ ったげなりゃ、又太鼓打ち出会うたげな。太鼓打ちも、そんなら自分も葬れ(礼)かたせても らをち云うて、"あー悲しや、チリンコツンテン、チヤッポンポン、ドロスコドンドンスット ントン"ち、みんなで調子よう鳴らしながら行列つくって、ずーっと粟畑ん畔ば通りかかった げな。 そりから、そりば見た粟畑ん持主や、葬れん行列から粟ば踏みたつかれはせんじゃか、ち 思たもんじゃけん、大声張り上げて、「粟踏むなーッ!!」「粟踏むなーッ!!」ち、どんど んおらびよったげなばってん、いつのはぜじゃり鳴り物んの調子引っ込まれて、自分まで、" あわふむな"ち調子合せて、身振り手振りして踊んながら、葬れん列ん尻付いてお墓さん行っ てしもたげなたい。 "あー悲しや、チリンコツンテン、チヤッポンポン、ドロスコドンドンスットントン、あわふ むな""あー悲しや、チリンコツンテン、チヤッポンポン、ドロスコドンドンスットントン、 あわふむな"ち云いながら。 そっでだーりん加勢ん泣ん来てん無かったさーびしか葬れん、おかげで鳴り物んどんが入 って、行列どんが出けて、どうじやり葬れんごつなったげなたい。 ◎註 大正六、七、年頃迄、其頃の此辺りの老人達から聞かされた民話であるが、老 人達歿後は話し続ぐ者もなくなった。 この民話にも韓国の葬式の形式がうかがえる。 |