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    火の魂　狐
   
  いつか蛍取りち云うて、お父っつあんと、おもと、とあたしと、ずうっと下の足形堤の方 さん下って行きよったりゃ、お父っつあんの黙って畔道ばさっさと行きなさるもん。そして、 こーうすかして見たりしよんなさるけん、何事じゃうかち思うて従いて行きよったりゃ、誰 かが夜魚切りしょったげな。その頃、火の魂の出るてんなんてん、ほんに云よった模様じゃ ん。そっでお父っつあんの確かめて見ろでち、どんどん畔道さん行って見なさったったい。

  火の魂ん出るちゃ、元、風もなか雨ん降ろごたるトローンとした晩にどん赤堂と権現山ん 権現さんとば、火の魂ん行ったり来たりさっしゃるげなてろ、ほんに評判しよった。

見た者も何人でんありょって、頭ん上ば、ヂュヂュヂュちうて、赤か火の真直ぐ飛うで行 かっしゃるてん、両方から火の来て途中で行き逢うて、ヂューッち燃えて消えらっしゃった てん、初手はほんに云よったが、いつかテレビの放送んあったたいのうや、メタンガスでそ げんなるこつんあるち云うて、よう研究したならそげな火の魂んわけもわかって行こたい。

近頃は、その火の魂の話しも無かごつなったが、赤堂と権現さんとの間が火の魂話しの頃と まるで様子の変って街通りに成ってしもたけんでばしじゃろの。

  ああた達が女学校に行きよった頃、昭和の初めごろたい。川瀬に古かお宮んあるとこに、 夕方てろ火の魂ん出るち云うて、ほーんに誰でん見げ行ったたい。何じゃり古るかお宮の樹 からポーッとなにかの出るち云うて騒ぎよったげなりゃ、誰かが袋でそりばこーう掬うて捕 ったげなりゃ、羽根蟻ん、ごーほん群がっとっとじゃったちうこつじゃったたい。

  お父っちゃまんお里と親類になる羽犬塚のお医者さんが、明治のはじめ頃じゃり、其頃誰 か夜中に難産じゃけん来てくれなさいち、呼び来たげなけん、ちーん知らん者げなばってん 行きなさったげなたい。そりから無事お産もしまえて帰って来なさったげな、お土産どん持 たされて。そりばってん、どうか妙に思いなさったふうで、「ひよいとしたなら、その饅頭は 馬ん糞かも知れんけん、朝迄そんなりしとけ」ち、云うとんなさったげな。朝になったりゃ、 やっぱ本な饅頭てん、おごちそうげなもん。

  そん時、手洗うて、手拭かけに手拭ば掛けとんなさったつば思い出して、見せにやんなさ ったてろ、見に行きなさったてろじゃん。大方この辺じゃったち思いなさったとこは、野山 んごたっとこで、その辺の松の枝に、その手拭がチャーンと掛かっとったげな。そしてその ときの晩じゃろ、どこかかに、ご祝儀のあるけん、そのおごちそば近所ん者ぢゃりどんが、 頼うどっとこに取りに行って、いつまっでん帰って来んげなもん。

お客のあっとこは、探しに行ったげなりゃ、どこかお墓所んごたっとこで、おごちそ取り行っ た者どんが、さんざんそのおごちそ食べて酔っ払うて寝込うどったげな。本人達やご祝儀で お客になって、飲み食いした積りじやったげなち。そのおごちそがお医者さんの貰いなさっ たおごちそと同じ物じゃったてうち云う話したい。

  「まどがはる」ち云うて、羽犬塚んにきに狐ん化かすとこんあったげなたい。どげなふう なこつどんじやったじゃり。

  こりも明治の初め頃で、やっぱ八女郡の下妻へんに、元浪人のうちてろで、高山ちよかと こんあったげなたい。

  そこが猫とたぬきと狐てろ三匹で化かしよるちうて、この辺からもみんな見げ行ったげな。 そこん堀江ん林タン(元治元年頃生れ真藤栄の幼友達)も見に行ったち云いござったが、ちょ ーいと畳のへりにお線香の立って燃ゆるげなもん。箪笥ん引出しあくっと、水の一ぱい入っ とるげなもん。

そげな風でどんこんならじゃったげなりゃ、誰かが鉄砲で、狸てろ狐てろの昼寝しとっと見 つけて射ち殺したげなけん、びたーっとそげなこっんなかごつなったてろち云うこつじやっ た。あげんとん二匹てろ、三匹てうが棒組むと、そげなこつん出来、(でくっ)てうち云うげ なが、こりまたどげなこつじゃりのー。

  津福のお父っつあんの千丁無田ば開きょんなさった、頃んごつ話しょんなさったが、いつ か、あっちさん行きよんなさる時か、山ん中の山畑に真白、そばの花の咲いとるげなもん。 その中ば、男が何じゃり川の中ばし、行きょる格好で、尻どんからげて、行ったり来たりし よるげなもん。ははあ、なにかに化かされとるかのーち思て、ちょいと向んん方見なさった げなりゃ、狐が向ん方にそば畑見ながら坐っとるげな。

そして尾ばあっちーこっち動かしよるげなたい。狐が左さん尾ばやると男が左さん行くげな、 右の方さん振ると右さん行きよるげなたい。そっで石ば投げなさったてろで、狐が逃げだし たげなけん、畑ん中ん男は気のついたげな。「どうしよったっかの」ち聞きなさったげなりゃ、 「河んあるもんじゃけん渡りよったとこじゃった」ち云うたげなたい。


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