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    お女中の機転
   
  お江戸からお供しておいっとったお女中にほーんになんでん出来なさるお方のおんなさっ て、ちょいと面白かお方じゃったげな。いつか殿様のご前で、三味線ばお弾きなりよったげ なりゃ、どうしたこつじゃり、三の糸のプッンち切れたげな。みんなアラーち思いなさった げなりゃ、「かまわん、かまわんそのままで弾け」てん仰しゃったげな。一番大事な三の糸ん 切れとっとに、そげなこつ仰しゃるもんじゃけん、どうしなさるこつかちみんな思よんなさ ったげなりゃ、そのお方は澄してほかの糸で代役させて弾き終えなさったち、ほんによっぽ どの上手でなかなら、あげなこつは出けんこっちみんな感心しなさったげな。殿様はようそ のお方に三味線弾かせよんなさったげな。

  またほんに頓智の利いたお方じゃったげなもん。いつじゃり殿様のご前で、プーッちおな らば出しなさったげな、殿様の「いまのはなんであったか」ち仰しゃったげなけん。みんな どうなるこつかち思て、ハラハラして青うなっとっとに、そのお方は澄まして「ハイ唯今の はおなかの虫が鳴いたので御座います」ち申上げなさったげなりゃ、殿様は「そうか、おな かの虫が鳴いたのかハハハハ」ちお笑いなって、なんのお咎めもなかったげな。


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