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    ご降嫁の御前様
   
  殿様の御前様(奥様)は、有栖川宮家の姫宮様で、初めは将軍さんの御養女ち云うこつでお いでになっとったげな。ご一新後じゃろ、宮家からち云うごつお成りなったっは…。

  そっで殿様は、ご自分の奥方んこつば姫上ち仰しゃりよったげな。かねて、殿様の御前様 に、十二単衣の御装束ばお召しなって拝見させて頂きたかち仰しゃりょったばってん、一向 お召しならじゃったげな。ばってんあんまり殿様のそげん仰しゃるもんじゃけん、そんなら ちうこつで、ご装束ばお召しなるこつになって、何日でん前からお髪上げからなんからほん に大ごつじゃったげなたい。

漸うご装束ばおつけ終りなったけん、よろしうございますちうこつで、殿様のお入ったけん、 お襖が開いたげなりゃ、そこに御前様の立派ん十二単衣お召しなってお立ちなっとるげなも ん。そりご覧になって殿様は、いきなり、ハハーッち云うて平伏しなさったままおつむりの 上がらんげなもん。御前様の許すち仰しゃったけん漸うおつむりの上ったげな。

「こうだから装束はつけないと申上げましたのに」ち、御前様は仰しゃったげな。ご装束にゃ ちゃんと位のあるとげなたい。昔ん人はそげな位ば大事にしとったけん、その装束の位に殿 様も気押されなさったっじゃろ。

  昔の殿様は、お子様んお出来なったっちゃ、家来達の、自分達都合の悪るかとようどうか して仕舞よったげなたい。その姫宮様の御前様にもお子様のおできなられたげなばってん、 間も無う家来どんがどうかして仕舞うたげなもん、そげなこつはこ前様はご存知のうして、 ご病気じゃったちばっかり思召しとっつろもんじゃけん、「いまあれが生きていれば幾つにな る」ち、ようお年数えどんなさりよったげなたい。


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