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    庄島の藩士たち
   
  常寛さんのよう話して聞かしょんなさったが、庄島あたりゃ身分の低うして、禄の少なか けん、中々生活の小もして、少しの無駄もなかごつなんでん利用しょったげな。

  風呂桶は家の外さん持出して、水入れとくと、天日で良か加減水のぬくもるけん、夏ぁそ りで行水するし、夏じゃなかときも、焚物の大分おろ入るけん。枇杷の葉てん蜜柑の葉てん も、ただ掃除焼きてんなんてんして焼き棄てんで、一枚一枚竹串てん、綱のごたるもんにさ し通して、干し上げて風呂の焚物にしょったげな。そのこつは稲富のおゆきさんも云よんな さった。荘島の友達ん方に遊び行くと、そげんしてあるけん、なんするとじゃろかち思よっ たりゃ、風呂焚きするとじゃったげなち。

  そりからあの辺な蜜柑のようなるけん、かねてお世話になっとるあたりえのお遣物な、み かんの熟るゝときまで待って熟れてからそりばお遣物にして、決して自分のうちだけで食べ て仕舞うこつはせじゃったげな。そう云うふうで、万事経済の出けよったけん、ご一新にな ってん、急に生活の変ってバタバタ倒れた上の階級よりも、しっかり持ちこたえが出けたっ たい。庄島でんずうっと下の方は、内職したりしょったけん、かえってご一新後の生活に耐 えきったっじゃろたい。久留米は一番上の階級の屋敷てんなんてんが、一番早よ跡んほろけ んなかごつなってしもうたもんじゃけん。

  初手、「何両二人扶持」てん、「三人扶持」てんち云うもんな、一日に頂く米は一升てん、 一升五合どんじゃったけん、酒徳利のごたるとに入れて、捧でトストス搗きょったげな、玄 米じゃけん、先頃の戦後の食糧難時代にゃ、みんなしょったごたるこったい。

  冬でん夜さりやすむ時ゃ、敷布団じゃなし、茣蓙どん板張にでんなんでん敷いて、布団な 掛布団だけじゃったげなたい。こりゃ庄島ばかりじゃなし、町方在方一般に、そう云うとこ の多かったげなたい。今からじゃ考えられんごたるこったい。


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