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		よか伯父っつあん
		岡野の健之丞伯父っつあんなあっちおいつてすぐ戸長になされなさったげな。   いつか税金取り立ての済んでお金の集まっとったとき、賊の人ったげな、伯父っつぁんの 枕刀抜いて、切り掛けなさったげなりゃ、刀の先の鴨居に当って賊は逃げたげな、税金だけ 持って。大方税金の集るこつ知っとった図知りじゃろち云うこつじゃったげな。そっで盗ら れた税金などっだけか田ば売って、弁償しなさったげな。経費の入らんごつち云うて、行徳 さん引込みなさったつに、がめ射り客てん、その税金盗人てんで、あべこべに入るこつばっ かりじゃった模様じゃん。   伯父っつぁんな戸長から引続いて、村長ば大正の初め頃まで勤めなさった。若かときゃ、 ときにゃ癇癪も起りょったふうばってん、晩年なほんにようか伯父っつぁんじゃった。年寄 んなさってからの顔は、夢想国師の国宝かなにかになっとる画像のあろがの、ありそっくり じゃったたい。年取って一ぺんな尿毒症ん起んなさったこつのあったばってん、また元気に なんなさって、昭和の初め頃八十九でおかくれたたい。倉富の強さん方で、あんまりお湯か ら上んなさらんけん、見に行きなさったりゃ、ちゃーんとお湯につかったままでおかくれと ったげな。脳溢血じゃった。ほんに極楽往生じゃったたい。ご自分で湯灌までしておいった ちみんな云よった。そげん太っちゃおんなさらじゃったばってん、やっば死体ちゃ重かもん らしうして、一家総掛りでやっと引上げなさったげな。   村長さんのごろ、植林てんなんてん、色々地方の為になるこつばしとんなさったけん、祠 てん記念碑てんの建ってお祭りのあったりしたたい。大体が真面目で、お酒でん大酒しなさ るでんなし、何かの寄りてん、宴会のときゃ、自分ば持て余しなさる位じゃったらしか。な にかしゃっち余興せにゃんときゃ、仕方なし立ち上って、権兵衛が種まきどんおどりょんな さった。   そりがくさい、なんじゃり、自分の手足の置き場んなかごたる恰好で、踊んなさるもん。そ のおかしさち云うたなら、お腹抱えて誰でん笑い出しよったたい。のちゃ、大分上手になっ とんなさったばってん。いつでん宴席ゃ、まあだ岡野さんの権兵衛が種播きん出らんけんち 云うて続きよったし、伯父っつぁんの権兵衛ば出しなさると、もうこっでお開き、ちなり よったげな。   伯父っつぁんも、そりばってん若か時ゃ、面白かこつしよんなさった風で、お江戸てろ上 方てろに名高かお汁粉屋のあって、甘してどんこん仕様んなかごたるとば、いろいろ趣向ば 変えて、十二ヶ月ち云うて、十二杯食べさせて、十二杯食べきった者にごほうびば出しよっ たとこのあったげなが、なかなか十二杯たべきる者な無かったげなたい。そのお汁粉屋に伯 父っつぁんのは入っでおいって、ちゃーんと十二杯上がってしもうたげなたい。そして何や らごほうびもらいなさったてろち云う笑い話しのあったたい。   岡野の半兵衛お祖父っつぁんの奥さんな、始めは、上妻の山内の本庄一郎さん（星川）ち 云う学者さんの弟勇平さんの娘御の、伯父っつぁんの一郎さんの娘分として、半兵衛さんに おいっとったばってん、おかくれたけんで岩本から後妻におさみさんのおいったったい。こ のばばさんな背も大っかごたった。   行くと「ほーう、みっちゃんのよう来らさったの」ち喜びよんなさったけん、お婦貴伯母さ んの「お孫さんなあぁた一人じゃけん時々は来て上げなさい」ち仰しゃりょった。ばばさん な子供の好くばばさんじゃった。あたしが琴どんばばさんに弾いて上げよったりゃ、お婦貴 伯母さんの、琴の音きくと、ご殿に上っとった時ば思い出すちようお話しのありよった。

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