SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語
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武蔵の湯 | ||
太宰府の武蔵の湯に行った時じゃった。天満宮さんに詣ったりゃ、小ーまか女の子の、草鞋 どんはいて、銀杏返しどん結うて、おやじさんのごたっとと一緒に詣りょった。おっ母さんの そり見て、「どうかまーあ、草鞋どん穿いて、愛らしさよ」ち褒めなさったけん、あたしん急 に草鞋ん欲しうなって、草鞋買わにゃんち云い出したけん、与平が買い行ったりゃ、「大人も んなございますばってん子供もんなどーこんございまっせんばい」ち云うて来たもん、そりばっ てん、草鞋買わんなら帰らんち云うて、道ん真ン中に坐りこうでしもたたい。 そっで仕様んなかもんじゃけん、大人もんどん買うて、車の梶棒にくくっつけて、そっでん、 愚図愚図云うて、すねくれながら人力車(ジンリキ)乗って武蔵の宿さん帰ったたい。 その後でお祖父っつぁんとばばさんの、あたしどんと入れ替りでおいったりゃ、宿のぢいさ んとばばさんが、「しゃまの草鞋ば買うて、ござっしやった」ち笑うて話したげな。そん時ゃ、 つっちやんが、どこからか、ひぜんがさ(皮癬瘡)うつって来て、家中にうつってしもたけん、 二日市のお湯に家中、入れ替り、立ち替り養生に行ったったい。 そん時の女の子のこつは、いまでん目にすがっとる、髪ゃぐるりば切り下げにして、真ン中ば 銀杏返しに結うて、赤鹿の子のひきさきどん掛けて、尻からげて草鞋どん穿いとった…。 木屋ち云うとが定宿じゃった。よう行きょった。後にゃ失敗したらしゅして、木屋のおやぢさ んな、延寿館の帳場どんしょった。木屋は街通りに家のあって、その裏にまた家のあって、長か 廊下のあって浴場まで行きょった。お湯は川の端の両側にあって、木屋の風呂場も川端じゃった。 白粉つけたなり入ると色ん黒うなるち云うて、洗い流して入って、上って又塗る時ゃ、ただの水 で洗い流して白う塗りょった。 おばやいは、山登りん上手じゃった。まあだあたしが子供ん時じゃったけん、おばやいも若う もあっつろが、武蔵の湯に行っとるとき、一人で天拝山にボクリ(木履)はいて登ったりしょった。 何時かだんやっぱ湯に行ったとき、一人で宝満山に登るち云うて出て行った。麓に着いた時ゃ、 もう夕方げなもん。 こりから天っ辺まで登るち云うたげな、下駄ばきで……。そしたりゃ村ん人達の呆れて、「ぞー たん(冗談)じゃなか、かまど神社は麗にも居んなさるけん、麗のお神どん拝うで、もういまか ら登るちゃ危なかけんやめなさい」ち止められたけん、とうとう登らんで帰って来たてん云よっ たたい。 |