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    富安のお直さん
   
  伯母さんのお入る前の鉄之助さんの奥さんな、久留米の昔からの豪商じゃった布屋稲益から で、伯母さんてんお父っつあんとは、母方の従姉になんなさるお方じゃった。

  そのお方のまあだおんなさる頃、奥さんのおっ母さんてん、妹ごのお直さんてん、上古賀に おいったお帰りがけに、追分の富安の前あたりにあった茶屋に寄ってお昼のお弁当ばあがりょっ たげな。そりば、其頃の富安の旦那んさんの見よんなさったげなたい。そのお弁当の上り方て ん何やら品の有る美しかお嬢さんじゃけんち、後ば番頭に付けさせなさったげなりゃ、稲益さ んおけえって、そこのお嬢さんち云うこつの知れたげな。

そんならよかろで、若旦那んさんの猪三郎さんの奥さんにご縁のきまったつじゃったげな。女 の子は、どこで誰から見らりょるかも知れんけん、かねての立居振舞いが大事なこっち、お直 さんば例にして、よう話してきかされよったたい。

  うちのおっ母さんのご葬式の時お直さんのお入って頂いたが、そのおかい取り姿ば、佐々の 武しやんの見て、お能の着付けんごつ美しか、どう云う美しさじゃろかち、めった感心しよん なさったが、中高顔の品位のあって美しかお方じゃったたい。


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