SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語


    始めての汽車
   
  始めて汽車に乗ったつは、太宰府に行った時じゃった、お祖父っつあんの、あたしと、おも とといとしゃんと連れてお行った。

  そんときまで汽車ちゃまあだ見たこつんなかったけん駅に行って切符切っては入って行った りゃ、線路ちうて鉄の棒の二本ずうっとあるもん。今から考ゆっと荷物運搬の手押車、ありが 汽車じゃろかち、不思議思うて、見よったりゃ向うの方から、黒か大ーっかもんの煙吐いて、 地ひびき立てながらボーッボッボッち云うて来たけん、びーっくりして身体のヨトヨトしたたい。

  汽車に乗って動き出したりゃ外に見ゆるもんな何でん後ん方さん飛うで行きょるごたるもん。 いとしゃんが、人力車ん飛うでいきょる、家んいきょる、田ん中ん飛うでいきょるち騒ぐもん。 筑前の国さん這入ったりゃ牛の見えたたい。そん頃まじあ筑後ん方にゃ牛はあんまりゃ居らじゃっ たらしゅして、さいふ(太宰府)に行くと牛の居るち云よった。畑の中で牛が仕事しょっとどん見たたい。

太宰府にゃ前にも行きょったばってん人力車で行きょったけん、汽車ぢゃそん時初めて行ったっ たい。いとしゃんが帰って来て、「カカさん、あたいが今日行ったとこはどこじゃかない」ち云 うたげな。「そりゃご隠居様め聞かにゃわからんたい」ちカカさんな云うたげなたい。まあだ学 校に行かん先のこつじゃった。

  こりもまあだ学校に行かん頃じゃった。お祖父っつぁんの佐賀まで連れてお行った。汽車ん佐 賀まで通ったけんで…。

  佐賀はお城のお濠に、いっぱい蓮のあって、濠の外に広ろか公園のごたるとのあって、川の チョロチョロ流れたりしてほんによかった。あたしゃ小まか川どんがチョロチョロ流れとっ処が ほーんに好いとったけん、帰ってから佐賀ちゃほんに良かとこじゃったち家中の者に話したたい。


前のお話へ  戻る      次へ  次のお話へ