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    家計建直しの失敗
   
  うちば其頃改革するちぅて、小まか家さん移ったばってん、ばばさんの「あたしゃイヤ。 大っか家に生れて、大っか家に来たつに、尻つき頭つきするごたる小まか家さにゃ行かん。あ の家からこっちん家ば見ると、地べたに坐っとるごたる気のするけん、イヤ。」ち云うて頑張っ とんなさるけん、ほんな家にゃばばさんと佐平次たち一家が家番で、お座敷にゃ将校さんの下 宿しとんなさって、お父っつぁんと、おっ母さんと、あたしと、女がこっちの小まか家さん来 とったたい。

ばばさんんのご飯と軍人さんのご飯な、こっちで作って、おっ母さんてん、女てんが、つりこ しょうけに種々入れて持って行きょった。あたしゃそんときゃ女学校の補修科に行きよった頃 じゃったけん、大方は山本におったばってん、時々帰って来よった。帰って来たとき、おっ母 さんの方さん、一番に帰っと、ばばさんのご機嫌の悪るかけん、ばばさんの方に一番に顔出し てからこっちさん来よったたい。

そりばってん、改革どころか、二手に分れて何彼につけて却って不便じゃん。そっで間も無う、 あたしどんも、元の家さん帰ったたい。

  そげなふうで整埋てん何てんに、三井郡の方から原口ち云う計算の立つ男の来て種々整理の ありょった。整理するまではよかったばってん、川ん端の藪ん中にゃ立派な大楠のごーほん生 えとるけん、ありば切って材木で売るより樟脳作って、売る方がよっぽど高うなって、負債も 済んで仕舞うけんち話し出して、川ん端の藪の中に小屋作って、樟脳絞る機械買込うで、人雇 うて樟脳絞りん始まった。

そしたりゃ、やっぱよか樟脳のどんどん出来るげなもん、あらかた一応取り終ったりゃ、入費 差し引いて、一万円の純益の出たげな。出たつは良かったばってん、費用は全部うちから先払い しとっとに、入費も入れず純益も入れず、結局何じゃ彼じゃち云よったりゃ、原口自体がどこ さんかお金持ったなり行方んわからんごつなって仕舞うたたい。

何年かのちにゃまた出て来とるふうじゃったが、純益に、入費と原木と、原口にのしつけてやっ たごたる事で、負債整理どころか負債の増えて仕舞うたたい。

  何せお父っつぁんの村んこつに忙がしうして、自分で見かじめん出来なさらんもんじゃけん、 仕事師どんがよか仕事場じゃったごさるふうたい。何せうちゃ、何時でん世話人に、すったり、 してやられよったもん。

原口てん、外にもうちの田で儲けて蔵建てたてん村ん者の云よった世話人ば、ばばさんの、い つちょん好きなさらんけん、あげなもんどんば寄せつけてち、ほんにお父っつぁんに悪う云よ んなさったばってん、お父っつぁんな、あげんとは又あげんとで無からにゃんときんあるけん ち、云よんなさった。そりばってん、どこでん財産の失うなり掛くっと必ずそげんとどんが寄っ て来るもん。そげんとん付いて来んごつ自分で処理しきる程なら、初から財産てん失うなしゃ せんもんの・・・。


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