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    ハレー彗星
   
  四十三年五月にゃハレー彗星の出たたい。
  ほーんに大―きなもんじゃった。早よから新聞に書き立てたけん堂出(土地の小字名〕のにきま で見げ行ったりしたばってん、そん時ゃまだ見えじゃった。後にゃ見にてん何てん行かんでん、 あげん大きう見えたたい。

夕方、人のお天とさんの、ギンダラ舞いしござるち云うて、どんどん村の西のタ日のよう見ゆる 馬場ん田てん、施餓鬼田の方さん走って行ったたい。そりばってんあたしゃとうとう見に行けん で、見そこのうたつが残念じゃったたい。彗星の尾のガスの中に地球が包まれたてろち云うこっ じゃった。

  お父っつぁんの、夜ほうき星ば見るち云いなさるけん、寝台ばお縁先さん出して上げた。頭ん方 は、まあだ高良山に半ばかくれとって、尾のポーッと空の真中のにきまで立ち上ったごつしとっ た。その後は、日のたつにつれ空の上ん方に小ーも見ゆるごつなっとった。

  何せこのほうき星ゃあたしどんがまぁだ子供ん頃から子供ん話題にさえなっとったっじゃん。小 学校ん一年上の組にウメしゃんち居った子供が、学年な一年上ばってん歳ゃ三っ四っ位あたしよ りか多かった。

そりが、どこから聞いて来よったもんじゃり、そげなふうな話ばようしょったが、そのうち地球 と、ほうきぼしとが衝突して、みーんな人間な死んでしもて、三人だけ生き残って又新しう地球 の出け直って行くげな、うちゃその三人の中の一人に入ったか、ちよう話しょった。そのほうき 星んこつじゃったらしか、ほんにそげんなったなら、どうするじゃかてん子供同志で話しょった ばってん、えすかつよりか何か不思議なこつち思よったたい。


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